「障害年金」と「老齢年金」と「遺族年金」の話。

「障害年金」と「老齢年金」と「遺族年金」の話。 社会制度のこと

年金。

この言葉をきくと高齢になってから自分とかかわるものに感じるかもしれませんが、じつはそれだけではありません。

この記事のタイトルの通り、年金は3種類に分かれます

よく話題になるのは老後がどうなるかという「老齢年金」ですが、このほかに「障害年金」「遺族年金」があります。

障害者、もしくは障害児を育てる親御さんが気になるのは障害年金だと思います。

これらの年金はどのような関係になっているか、障害年金をもらっている場合に老齢年金に何か影響が出るのか、といった問題は複雑です。

この記事では障害年金がどういった制度であるのかといった説明を中心に、各年金の概要や関係性をできる限り分かりやすくまとめました。

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障害年金(給付)の概要

病気やケガが原因で障害者となった場合、一定の要件を満たしていた時は「障害給付」を受けることができます。

この「障害給付」は以下の三つに分かれます。

障害給付
障害基礎年金: 対象は「国民年金加入者」
障害厚生年金: 対象は「厚生年金加入者」
障害手当金: 対象は「厚生年金の加入者」

一般的に障害年金といわれるのは「障害基礎年金」と「障害厚生年金」のことです。

対象の基準になっている国民年金と厚生年金の違いについては後程書きますが、簡単にいうと国民年金は20歳以上のすべての人が加入するもの、厚生年金は会社員や公務員が加入するものです。

厚生年金に入っている人は国民年金にも加入していることになります。

ダウン症などの先天性疾患での障害年金を考える場合は、会社員等になっていなければ障害基礎年金の対象になります。

大前提として障害基礎年金は20歳からの受給が基本になっていて、20歳になる前に働き始めていた場合はより早く障害厚生年金の対象となる可能性がある、ということを覚えておいてください。

障害基礎年金とは?

「年金」という言葉からイメージすると、年金をもらうためには先に自分が年金を納めていることが条件だと思わないでしょうか?

これは障害年金には当てはまりません。

ダウン症などの先天性疾患の場合、自身も配偶者もまだ年金を納めていなくとも、20歳になったときに障害基礎年金を受給できる可能性があります。

以下に2022年2月現在の受給要件や受給額などをまとめました。

どんな人が受け取れる?

障害基礎年金の受給要件を簡単にまとめました。

以下の条件を全て満たしている方が対象になります。

  1. 以下のいずれかの期間に障害の原因となる診療を初めてうけた日(初診日)があること
    ・20歳前 (←ダウン症など先天性障害は生まれた日が初診日になるのでココです)
    ・20歳~60歳の国民年金加入期間
    ・年金制度に加入していない60~65歳未満で国内生活中
  2. 障害認定日に障害等級1級、または2級に該当すること
    障害認定日と障害等級については後述します

ちなみに、20歳以上の条件の場合、初診日のおよそ2か月前までの期間に保険料納付(年金を納めていた期間が一程度あるか)の条件が加わるのですが、先天性障害のため20歳前の条件で申請をする場合は保険料納付要件は当然ありません。

詳しく条件を知りたい方は日本年金機構HPをご覧ください。

障害基礎年金の初診日、障害認定日とは?

・初診日
「障害の原因となった病気やケガについて初めて医師または歯科医師の診療を受けた日」
先ほども書きましたが、ダウン症の場合は生まれた日が初診日になります。ただし、全ての先天性障害が同じとは限りません。
例えば、障害が20歳を過ぎてから判明した場合です
この場合、すでに就職しており厚生年金に加入していれば、その判明した日を初診日として障害厚生年金の受給を受けることが出来るかもしれません。

・障害認定日
以下のいずれかの日で所定の障害の状態だった場合、その日が認定日となります。
1. 初診日から1年6か月を経過した日(この期間で治った場合は治った日)
2. 20歳に達した日
3. 65歳に達する日の前日

障害等級とは?

障害年金の対象は手足の障害などの外部障害、がんや糖尿病などの内部障害などになりますが、それぞれに1級、2級の認定基準があります。

例としてダウン症の場合は「精神の障害」(知的障害)で判定をうけることがほとんどだと思いますので、その説明を簡単にします。

知的障害に関する認定基準は以下のようになっています。

1級・・知的障害に伴う以下のような理由で日常生活に常時援助を必要とする
・食事や身の回りのことを行うのに全面的な援助が必要
・会話による意思の疎通が不可能か著しく困難

2級・・知的障害に伴う以下のような理由で日常生活に援助を必要とする
・食事や身の回りのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要
・会話による意思の疎通が簡単なものに限られる

これが認定基準になりますが、この基準に沿った判定が地域ごとに変わったりしないようにする必要があります。

このため、精神障害、知的障害、発達障害のための判定ガイドラインがあります。長くて読みづらいのですが、知的障害については以下について考慮する、という記載があります。

  1. 現在の症状、状態
    ・知能指数。ただし、日常生活の援助の必要度もみる。
    ・手適応行動。「落ち着きのなさ」「共感性の低さ」「無関心」など
  2. 療養状況
    ・激しい不適応行動や精神疾患が併存している場合、療育状況も考慮する。
  3. 生活環境
    ・家族の援助や福祉サービスの有無
  4. 就労状況
    ・労働に従事しているか否かだけでなく、仕事の種類や受けている援助の内容
     ほかの従業員との意思疎通の状況
  5. その他
    ・発育、教育歴、療育手帳の有無、幼少期の状況

これでもまだピンときませんが、等級判定に必要な情報を十分なものにするため、日常生活や就労に関する内容を提出し、判定の参考にしてもらいます。

日常生活については以下のような点に関して提出します。

 食事、入浴や清潔保持、金銭管理と買い物、外出、通院と服薬、コミュニケーション など

これらについて記載された診断書や申立書(必要な書類の説明は後述します)に基づいて東京の日本年金機構の認定医が判定を行います。

つまり、最終的には書面による判断になるということです。

支給額は?

障害基礎年金の支給額、支給日などは以下のようになっています。

これとは別に対象となる本人に子供がいる場合は支給額が加算されることがありますが、ここでは割愛しています。

支給額
・1級・・・ 972,240円/年 → 81,020円/月
・2級・・・ 777,792円/年 → 64,816円/月


この金額は2022年度6月支給から適用です。昨年度と比較してまた少しマイナスになりました。

ちなみに障害年金は非課税です。原則65歳以上が対象となる「老齢年金」は雑所得として課税対象になります。

支給日
年6回、偶数月の15日にその月の前2か月分が支給されます。

所得制限
障害基礎年金は20歳前の傷病により受給する場合のみ、所得制限があります。
これは年金の加入(本人による保険料の納付)を支給の要件としていないため、だそうです。

・前年所得 3,704,000円を超える・・2分の1支給停止
・前年所得 4,721,000円を超える・・全額支給停止

2020年(令和2年)8月分から2021年(令和3年)9月分の年金は、2020年度(令和2年度)所得におり判定されます。

申請に必要は準備は?

障害基礎年金を受給するためには申請が必要です。

必要となるのは通帳や印鑑、住民票、市区町村の窓口で入手できる「年金請求書」などの基本的なものに加え、以下のようなものがあります。

  • 診断書
    医師、または歯科医師が作成するもので所定の様式があり、認定日から3か月以内の現症、または申請をする日が認定日よりも1年以上離れている場合は直近の現症も併せて必要になります。
    診断書は最終的に認定医が「日常生活の制限の度合い」を確認するために作成されるものです。
    診断書作成のための記載要領があり、これに基づいて診断書が作成されていきますが、例えば、日常生活能力の判定基準で「金銭管理と買い物」について「できる」と判定されるための目安は以下になっています。
    「金銭を独力で適切に管理し、1か月程度のやりくりが自分でできる。また、一人で自主的に計画的な買い物ができる」
    ちょっと私も自信がありません・・・。
    医師が作成するとはいえ、日常生活を医師が把握しているわけではないので、担当してくれる医師に日常を伝えて把握してもらうことが大切だと思います。

    病歴・就労状況等申立書
    たびたび話題になる最も大変な書類がこれです。
    先天性疾患の場合、生まれた時から申請する日までの通院期間や、受診回数、入院期間、医師から指示された事項などなどの病歴や、日常生活状況、就労状況などを記入します。障害基礎年金の受給を考える場合は前もって準備が必要な項目になると思います。
    基本的には最長でも5年ごとの期間に区切って書く必要があるようですが、記載要領にもある通り、先天性疾患の知的障害の場合は記載を簡素化できる可能性があります。
    書類の記入をご自身でするか、社会保険労務士の方にお願いするか、といった違いはあると思いますが、いずれにしても記録を残して前もって整理しておいたほうがよさそうです。

もう一つ「受診状況等証明書」というものがあり、これは初診時と、診断書を作成した医療機関が違う場合に必要となるものですが、知的障害で申請をする場合で、療育手帳を持っている場合は不要となります。

これらの書類を準備し、提出は住んでいる市区町村の国民年金課に行います。提出された書類は日本年金機構の認定医が確認し、判定を行います。

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そもそも年金とは?

ここまで障害基礎年金についてまとめてきましたが、年金には「国民年金」「厚生年金」「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」といったものがあり、それぞれが関係しあっています。

障害基礎年金を受給するにあたって押さえておきたい年金制度全体について、最後に簡単にまとめてみます。

国民年金、厚生年金とは?

年金制度は2階建ての構造になっていて、1階は「20歳以上60歳未満のすべての人が加入」する国民年金、2階は「会社員や公務員が加入」する厚生年金保険になります。

加入者(被保険者)別にみると以下のようになります。

  • 第1号被保険者・・自営業者や学生のこと
     → 国民年金に加入 → 20歳になった時点で加入
  • 第2号被保険者・・会社員や公務員
     → 厚生年金保険(+国民年金)に加入 → 就職した時点で加入
    第3号被保険者・・会社員や公務員の配偶者など
     → 国民年金に加入

厚生年金は2階部分なので、加入する時点で国民年金にも加入していることになります。

また、1階部分の国民年金は20歳以上であることが条件ですが、一方で2階の厚生年金には年齢制限がありません。

そのため、例えば18歳の会社員の場合は、会社員なので厚生年金に加入することになり、20歳未満でありながら国民年金にも加入していることにもなります。

加入条件以外で国民年金と、厚生年金の違いは?

簡単に言うと、国民年金加入者は納める年金が低額な代わりに受け取れる年金額も低くなります。逆に、厚生年金加入者は一般的に納める年金が国民年金よりも高額な代わりに受け取れる年金額が高くなります。

また、受け取る年金の名称ですが、国民年金加入者は「~基礎年金」となり、厚生年金加入者は「~厚生年金」となります。

受け取れる額の違いについては、原則65歳から受け取る「老齢年金」だけでなく、先に紹介した「障害年金」や「遺族年金」でも同様のことが起こります。

老齢年金、障害年金、遺族年金とは?

国民年金や厚生年金は自身が加入している年金制度を区別するものですが、一方で、受けとる年金を区別しているのが「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」の3種類あります。

そして、それぞれが国民年金と厚生年金に対応していて、例えば老齢年金であれば「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」と区別されるため、受け取れる可能性のある年金は計3×2=6種類となります。

受けとる年金の違いは簡単に以下の通りです。ここでは説明を簡単にするため、それぞれの基礎年金に基づいて整理します。

老齢年金障害年金遺族年金
概要原則65歳以上で受け取る年金障害者が受け取る年金年金に加入していた人が死亡した際に
遺族が受け取る年金
受給要件原則65歳になったら受給
(繰り下げ、繰り上げも可)
・初診日に国民年金の被保険者であること
AND
・認定日に所定の障害等級であること
・国民年金の被保険者が死亡したとき
OR
・国民年金の被験者であった人で、
60~65歳未満の人が死亡したとき
など
保険料納付要件保険料納期済期間などの合算が10年以上であること保険料納付済期間などの合算が被保険者期間の2/3以上あること

ただし、初診日20歳前で申請する場合は免除
死亡した月の前々月までの
被保険者期間のうち、保険料納付済期間の合算が2/3以上あること
年金額781,700円/年
(2020年度、満額)
1級 977,125円/年
2級 781,000円/年
(2020年度、別に子の加算あり)
781,700円/年
(2020年度、別に子の加算あり)
その他初診日20歳前で適用の場合、所得制限あり受給できる遺族の範囲
18歳になって3月31日までの子
OR
18歳になって3月31日までの子のある配偶者

受給要件や保険料納付要件など簡単に書いていますので、実際に申請する場合は個々の条件を調べてみてください。

これらの各基礎年金に原則は上乗せするかたちで各厚生年金があり、またそれぞれに受給要件があります。

よって、先天性疾患のある方が会社員等でなければ、20歳になった時点で「国民年金」に加入することになり、同時に「障害基礎年金」の申請を行うことができる可能性を持つことになります。

複数の年金を受け取れる?

これまで見てきた年金の受給要件を見てみると、同時に受給要件を満たせるものがあります。例えば、障害基礎年金の受給者が遺族となった場合、遺族基礎年金も同時に受け取ることが可能でしょうか?

これは原則として受け取ることが出来ません。

年金には「併給調整」というルールがあり、一人の人が複数の年金受給者となる場合には、いずれか一つの年金を選択する必要があります。

ただし、「原則として」と書いたように、老齢基礎年金と老齢厚生年金など同種の年金は一緒に受け取ることが可能です。

また、その他にもいくつか例外がありますので、下に表にまとめました。

老齢基礎年金障害基礎年金遺族基礎年金
老齢厚生年金×
障害厚生年金××
遺族厚生年金
○ ・・ 同種の年金のため、併給可能
△ ・・ 例外的に65歳以上の場合、併給可能
× ・・ 併給付加
その他、65歳以上の場合、老齢厚生年金と遺族厚生年金の併給も可能

併給となった場合でも、年金額の調整がされる場合もあります。

まとめ

今回は障害基礎年金の話を中心に、そのほかの年金制度、またそれぞれの関係性についてまとめました。

最後まで読んでいただくと分かると思いますが、かなり複雑な制度です。ここに書いていない給付制度などもまだあります。

全部を理解しておくことは難しいですが、全体のイメージをつかんでもらって、個々の年金の受給を考える際の一助になればと思います。

私も子供の障害基礎年金の受給に向けて、準備を始めたいと思います。

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