私は自分で気に入っている服を着ることが好きです。特段、人より優れてオシャレというわけではないですが、着る服の好みはそれなりにありますし、好きではない服を着たくはありません。
多くの人が同じだと思います。
これは障害があってもなくても同じです。
誰もが好きなものを身に着けたいと思っているはずですが、障害を理由にオシャレが自由に出来ない人がいます。
ただ、その不便さに気付いて、デザインで解決したり、イメージを変える流れを作ろうとしたりする変化も起きています。
今回は障害とオシャレについて、課題と、それを解決しようとする動きについてまとめました。最後におまけとして、ダウン症児の父である私が考えるダウン症児に似合う服も書いてみました。
障害とオシャレの問題点
障害は社会生活をおくるうえで精神的、もしくは身体的に不便、不都合を感じる状態です。
一方、オシャレは自分が楽しむため、一部、人から良い印象を持たれたいという気持ちを満たすためのもの、といった感じでしょうか。
あまり関係性のなさそうに思える「障害」と「オシャレ」ですが、なかなかそうはいかない問題もあります。
ダウン症児とオシャレ
ダウン症児には身体的な特徴として手足が短いことが多く、また、筋力が弱いため、特に歩き始めは転ぶことも多くなってしまいます。そのため、ぴったり合うサイズのものがなかったり、よごれることが多いので、着替えやすいことが優先されてしまいがちです。
靴も足首まで固定できるハイカットのスニーカーが多くなります。
その結果、Tシャツや、履きやすいストレッチのあるレギンス、いつも同じスニーカーといった格好になりがちです。
腕が短いので自分で長袖の服を脱ぐことにも苦労することもあります。
また、補聴器やメガネなど代えのないものを身に着けていることも多くなることから、いつも同じ格好、というイメージになりやすいです。
知的障害があると装飾品など身に着けづらくなりますし、シャツなどボタンのある服も着るのを敬遠しがちになります。
どれもオシャレが出来ない、というほどの厳しい条件ではありませんが、低くてもたくさんのハードルがあることは徐々にストレスになっていきます。
身体障害とオシャレ
身体障害がある場合はオシャレに対してもっと高いハードルを感じることもあります。
例えば、下半身不随などで車いすに乗っている場合、服を選ぶ際に服が手が届く場所になかったり、試着室に入れなかったりすることも考えられます。ネットで服を買うにしても、着慣れていないものを着ると誰かの手を煩わせてしまうかもしれません。スカートであれば、車輪に絡まる可能性だってあります。
片側麻痺がある場合、健側(麻痺のない側)の着脱をすることに苦労しますし、前開きのボタンは時間がかかることが想像できます。健側の袖口のボタンは留めることが出来ないのではないかと思います。
身体機能を補う器具の支障になる可能性のある衣服はその機能面から着ることが出来ないこともあるでしょうし、着ることができるものであっても、試着などで人の手を煩わせるのであれば、と遠慮してしまうこともあるでしょう。
障害×オシャレが持つ可能性
このように障害者にとってオシャレはいくつかのハードルが出来てしまいます。
普段から障害に関わらない人であれば、障害のある人がオシャレに積極的になることは想像しづらいかもしれません。もっと障害の克服に必死になっていて、オシャレの余裕はない、といったイメージからでしょうか。
でも、先天性でも後天性でも、障害があってもオシャレをしたい人はたくさんいます。それは健常の方と変わらない感覚でしょう。
私はオシャレなどの個人の自由はあって当たり前のもので、それが実現できない人がいるのであれば、それは個人の問題ではなく、社会全体で解決する問題だと思うのです。
特定の環境への解決策は一見するとその対象の人だけの利益に思えますが、ほとんどのひとが階段よりもスロープのほうが歩きやすいように、社会全体の利益にもなっていきます。オシャレも同様で思ってもみない機能、デザインが生まれる可能性を秘めています。
また、障害があるからといってオシャレを我慢しない、遠慮しない姿勢は「理不尽に対して我慢をする必要はない」というPositiveなメッセージを社会に発信します。少し大げさかもしれませんが・・。
ユニバーサルデザイン、多様性への対応といった流れはオシャレの世界にも確実に広まってきています。
障害×オシャレ=特別じゃない
ここからはいくつか、障害×オシャレの取り組みを紹介します。
福祉×オシャレで世の中を変える: bottom’all
私がこのブログ記事を書こうと思ったきっかけがこれです。
日本障がい者ファッション協会(JPFA)代表理事を務める平林景さんが、車いすの方の苦労を知ったことをきっかけにして座位からデザインを組み立てたボトムスを作り、bottom’allというブランドを立ち上げています。
大きく話題になったのが、座位でも立位でも男でも女でも年齢も関係なく誰もがはけるスカートです。
HPを見てもらうと分かりますが、確かに座っても立ってもとてもかっこよく、男性がはいてもOKなデザインだと思います。私は普段着で使える袴のようなイメージだな、と思いました。
機能面では腰回りがマジックテープになっていて、車イズに座ったまま着脱ができるように工夫されています。
常識を捨てて、全ての人がアクセスできるオシャレというコンセプトでパリコレに挑戦中とのことで、とても応援しています。
UNITED ARROWS:DEEP FASHION
ユナイテッドアローズは障害者一人ひとりの悩みを解決する、ファストファッションではない “DEEP FASHION” をコンセプトにUNITED CREATIONS 041(オーフォーワン)というレーベルを立ち上げ、展開を続けています。
例えば、筋ジストロフィーの女の子のために、スタイにもなるエプロンドレスを開発しています。これは筋ジストロフィーは全身の筋力が弱く、きを抜くとよだれが垂れしまうのですが、成長するにつれて年相応のデザインや機能性のあるスタイがなくなってしまう、という悩みを解決するために制作されています。
筋ジストロフィーの女の子という限られた環境の方のために生まれたデザインですが、とても可愛らしく、機能性も優れていることから、普段着としてだけでなく、飲食店の制服などにも応用が利くのではないかと思います。
これも、障害×オシャレのもつ可能性を感じられるプロジェクトだと思います。
Gucci Beauty:L’Obscur
Gucciのコスメブラント Gucci Beautyがダウン症のモデル、エリー・ゴールドスタインさんを新作マスカラL’Obscurの広告塔として起用しました。
起用の理由はGucciのクリエイティブ・ディレクターの次の言葉がきっかけになっています。
「L’Obscurのマスカラは、メイクアップを使って自由の物語を自分らしいやり方で語ることのできる人のためにデザインしました」
つまりこういったメッセージを出すには、ダウン症という障害をもつエリーさんがふさわしかったということです。障害があること自体が社会に対して貢献する一つの例だと思いました。
余談ですが、広告の撮影は他のモデルさん、スタッフなどを含め半数が何かしらの身体的な障害をもった方で実施したそうです。
少なくとも、障害者は働けないと思っている偏見は間違いであるということが分かります。
TOMMY HILFIGER ADAPTIVE
ファッションブランドTOMMY HILFIGERが主に身体障害者のニーズに合わせたコレクションを継続的に発表していて、2020年の春から日本でのオンライン販売を開始しています。
ボタンやジッパーにマグネットを使用したり、パンツにドローコードやゴム仕様のループを付けることで脚の装具や矯正器具、ギブスなどに対応するなど、様々なデザインを展開します。
デザイナーであるトミー・ヒルフィガーさんも自身が自閉症の子供を育てたご経験があるため、こういった展開を続けているそうです。
「子どもが学校の友達と同じ服が着られないことがどういうことかを見てきました。こんなことがあってはいけないのです。誰にも心地よいと思える服をきて、自信を持つ権利があるのです。」
全く持ってその通りだと思います!
モデル:菜桜さん
インスタグラムなどでも話題になっていますが、ダウン症の菜桜さんはモデルをされています。
VOGUE JAPANにも掲載され活躍をされており、今は所属していた事務所を卒業されたそうですが、みんなが笑顔になれるモデルを目指して活動は継続されるとのことです。
日本ではまだまだ障害のある方がモデルとして活躍できる土壌は出来ているとはいけませんが、先ほどのGUCCIのように菜桜さんが商品のメッセージやコンセプトを表現するのに最も適している、と選ばれて活躍される姿を待っています。
イヤーマフ: 3M Xシリーズ
少し違った目線で、イヤーマフです。
イヤーマフは聴覚過敏の方が生活をしやすく、周囲の音を防音するための者です。自閉症スペクトラム症やADHDの方には聴覚過敏の方が多いそうです。
軽度の方でも職場や通常の生活で装着するほうが楽だという方もいらっしゃると思いますが、ヘッドホンで音楽を聴いているのと誤解される、異質なものとして目立つのが嫌だ、といった理由で付けていない方もいらっしゃるようです。
そもそもそういった理解が進まないことが問題ですが、デザインが優れたものを多くなり、そのオシャレさが周囲にイヤーマフを知ってもらうきっかけの一つになるのではないかと思いました。
私は3MのXシリーズ イヤーマフがとてもかっこいいと思っています。
https://multimedia.3m.com/mws/media/1173815O/ohs-236.pdf
最後に。
障害とオシャレの関係についてまとめました。
この結びつきが強くなることは障害をもつ当人にとってはその機能性や周囲への普及といったメリットがあり、メーカー側にとっては思わぬ優れた機能を生むきっかけとなるメリットがあると思います。
もっとこの動きが広まってくれるのではないかと期待しています。
ユニクロやGUが障害をテーマにしたインクルーシブな商品開発や、ダウン症児を広告塔として起用する日がそう遠くない日にあるかもしれません。
障害とオシャレの関係性が当たり前のものになる日が来てほしいなぁと思います。。
コラム:ダウン症児の父が思うダウン症児に似合う服
3歳半になる息子にいろいろな服をきてもらっています。小さな子供が着る服は安くても種類が多く、迷ってしまいます。
ダウン症児の特徴として、手足が短い、背中が丸い(猫背)、といったことが多いと思います。
半袖短パンの熱い時期はあまり選びようがありませんが、秋から冬の時期はよくダボっとしたパーカーに、レギンス、といったスタイルでした。
理由は大きなフードがあると猫背が少し気にならなくなり、ぴたっとしたレギンスだと丈の長さが何とかなるからです。
またレギンスは安く、タンスの場所もあまりとらないので色違いをたくさんもっています。
まだ着せたことはないですが、オーバーオールや、つなぎも似合うと思っています。裾はロールアップすればいいですし。
あとは補聴器のストラップも手作りも含めてたくさんあります。その日の服にある色に変えたりもします。補聴器はなかなか替えられないですが、ストラップはいくつあってもよいので。
近いうちにいろいろ試してみて結果を書きたいと思います。