ダウン症をはじめとする染色体異常は生まれてくるまで分からないものではなく、「出生前診断」を行うことで検査することが出来ます。
生まれてくる前に子供の異常を把握することが出来れば準備もできるし利点が多いように思いますが、診断そのもののリスクや社会的な倫理問題、両親の心情などの課題・問題もあります。そもそも、どういった検査であるのかも社会全体にあまり浸透していないようにも感じます。
この記事ではここ数年で急速に広まるNIPTという出生前診断方法を中心に各診断に関する説明をまとめ、最後に現在ダウン症児を育てる父親として思うことを書きました。
出生前診断とは?
「出生前診断」にはいくつかの検査方法があり、まず、大別すると超音波を使って画像で検査する方法と、染色体疾患に関する検査に分けられます。
染色体疾患に関する検査は以下のように更に数種類に分けられます。
非確定検査(それだけでは確定診断がつかない検査)
・母体血清マーカー
・コンバインド検査
・新型出生前診断(NIPT)
確定検査(それだけで診断が確定する検査)
・羊水検査
・絨毛検査
母体やお腹の子供にもリスクが伴う確定検査を行う前に、まずリスクのない非確定検査の行うことによってお腹の赤ちゃんの状態を確認することが出来ます。
非確定検査とは?
非確定検査はその名前の通り、この検査だけでは診断が確定されず、確定検査の前段階として実施される検査です。この検査の最大の利点は超音波や採血で行う検査であるため、流産・死産のリスクがないことです。
長く実施されてきた母体血清マーカー検査やコンバインド検査などの非確定検査は検査精度の低さが課題でしたが、近年、採血のみで精度の高い結果が出るうえに、検査実施時期の早い新型出生前診断(NIPT)が注目されています。
それぞれの検査を検査可能となる時期の順番に並べます。
・新型出生前診断(NIPT)
実施時期:10週以降
検査対象:21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー
精度:99% (モザイク型を除く21トリソミーの場合)
結果報告までの期間:1~2週間ほど
・コンバインド検査
実施時期:11~13週
検査対象:21トリソミー、18トリソミー
精度:83% (モザイク型を除く21トリソミーの場合)
結果報告までの期間:2週間ほど
・母体血清マーカー検査
実施時期:15~18週
検査対象:21トリソミー、18トリソミー、神経管閉鎖不全症
精度:80% (モザイク型を除く21トリソミーの場合)
結果報告までの期間:2週間ほど
「モザイク型」などダウン症のタイプについてはこちらの記事を参考にしてください。
それぞれの検査の詳細を以下にまとめます。
新型出生前診断(NIPT)
NIPTですが、正確な名称は「無侵襲的生前遺伝学的検査」、または「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」といいます。
「侵襲」とは「怪我・病気・手術・医療処置などによって生体を傷付けること、または生体の通常の状態を乱す刺激」を指す言葉なので、これらの危険性がない検査という意味のようです。
母体血清マーカー検査などの従来の方法と比較して新しいので「新型出生前診断」と呼ばれています。
検査方法
- 採取した血液からDNA断片の情報を読み取ります。採取した血液には妊婦さん由来の断片情報と赤ちゃん由来の情報の両方が入っています。
- 読み取った情報からDNA断片が何番の染色体に由来しているものかを分類します。
- 分類したDNA断片の量を標準的な値と比較することで判別します。例えば、21トリソミーの場合、21番染色体が2本から1.5倍の3本になっていますので、赤ちゃん由来の21番染色体の割合が高くなります。この標準値との差を使って判別を行います。
- 検査結果は「陽性」「陰性」「判定保留」で出てきます。「判定保留」は採血したDNA量が足りなかった場合や、投薬の影響などで検査結果が正しく出ない場合などに起こります。
「DNA」や「細胞」などについてはこちらの記事を参考にしてください。
NIPTの検査対象
21トリソミー(ダウン症候群)
18トリソミー(エドワーズ症候群)
13トリソミー(パトウ症候群)
NIPTの費用
約15万円~21万円
NIPTの注意点
NIPTは精度の高い検査方法ですが、非確定検査なので検査結果を確定させるための検査を別途受ける必要があります。なお、上の「NIPTの費用」にはほとんどの医療機関では確定検査の費用も含まれています。詳細は各医療機関で確認してみてください。
また、医療機関によって「35歳以上の年齢制限」「夫婦同伴」などの条件があるかどうかといった違いがあります。
「認可施設」「無認可(認定外)施設」とは?
上の注意点で書きましたが、医療機関によってNIPTの費用や条件に違いがあります。また、検査対象についても3種類のトリソミー以外に「性染色体検査(ターナー症候群、クラインフェルター症候群、XXX症候群など)」、「微小欠失検査(染色体の微細な欠失の検査)」などを挙げているところもあります。
これらの違いは主にその医療機関が「認可施設」か「無認可施設」かの違いから生じています。
この認可とは公益財団法人日本産科婦人科学会による認可を指し、認可施設は「検査対象は3つのトリソミーのみ」「35歳以上の年齢制限」の条件があること以外にも、「出生前カウンセリングの実施」条件、「大学病院のような大きな病院では産婦人科医師や小児科医師が常時勤務していること」といった条件をクリアしています。NIPTを考える際に安心できる施設であると言えると思います。
一方で認可施設の問題点はその数です。令和2年11月現在で認可施設は全国で92施設しかなく、特に地方では認可施設に物理的にアクセスすることが難しい状況にあります。そのため、無認可の施設でNIPTを受ける方が多くいらっしゃり、カウンセリング・ケアの精度などが問題視されることがあります。
無認可施設でも十分な対応をとられているところももちろんあると思いますし、そこで検査を受けられる方が責められる必要も全くなく、国や社会の制度の問題なので、検査を希望する方にとって最もよいかたちにできる限り早く向かっていってほしいなと思います。
コンバインド検査
コンバインド(Combined)とは「組み合わせ」という意味で、超音波検査と母体血清マーカー検査(採血)を組み合わせることによって行う検査です。
超音波検査では、赤ちゃんの首の後ろのむくみ(NT: Nuchal Translucency)を確認します。首の後ろが厚く、むくみがある場合に21トリソミーなどの染色体疾患を持っている可能性が高いと言われているためです。
また、血清マーカー検査では2つのタンパク質の値を測定します。
この超音波検査とタンパク質数値、妊婦さんの体重、家族歴、年齢などの情報を組み合わせて、検査対象となる疾患を持っているかの確率を調べます。検査結果は確率で出てきますが、検査対象それぞれに基準値があるので、その基準値よりも値が高ければ「スクリーニング陽性」、低ければ「スクリーニング陰性」として判定されます。
コンバインド検査の検査対象
21トリソミー(ダウン症候群)
18トリソミー(エドワーズ症候群)
コンバインド検査の費用
約3万円~5万円
コンバインド検査の注意点
検査の前後に遺伝カウンセリングを義務付けているところが多くあります。コンバインド検査結果は確率で表示されるため、カウンセリングの内容をよく理解し、どのくらいの確率だったら確定検査を受けるか、といったの判断目安を考えておく必要があります。
母体血清マーカー検査
母体血清マーカー検査は「クアトロテスト」とも呼ばれ、赤ちゃん、または胎盤で作られる4つの成分を採血した血液から採取することで行う検査です。
採取した4つの成分値は、妊娠が進むにつれて増減するものですが、この検査の対象となっている疾患によっても増減します。
この値の増減と、妊婦さんの年齢、体重、妊娠週数、家族歴などを用いて、それぞれの疾患であるかどうかの確率を出します。この検査も先ほどのコンバインド検査と同様、検査結果は確率と、それに基づく「スクリーニング陽性・陰性」によって示されます。
母体血清マーカー検査の検査対象
21トリソミー
18トリソミー
開放性神経管奇形
開放性神経管奇形とは?
妊娠初期に形成される赤ちゃんの神経管が正常に形成されないため、赤ちゃんの脳や脊髄に障害が起きている状態で、二分脊椎(脊椎が正常に形成されない状態)や無脳症(頭蓋骨が正常に形成されないため、脳が発達しない状態)が考えられます。
母体血清マーカー検査の費用
約3万円
母体血清マーカー検査の注意点
コンバインド検査と同様、結果が確率で示されるため、どの程度だったらどうするか、といった判断値を考えておく必要があります。
ここまでが非確定検査です。
確定検査とは?
確定検査は、こちらもその名前の通りで、それだけで診断が確定する検査です。
妊婦さんのお腹に針を刺し、羊水や絨毛から採取した細胞を培養し、染色体そのものを見る検査になります。検査結果は確かなものになりますが、絨毛検査で1/100、羊水検査で1/300の流死産のリスクがあると言われています。
・絨毛検査
実施時期:11~14週
検査対象:染色体疾患全般
精度:100% (モザイク型を除く21トリソミーの場合)
結果報告までの期間:2~3週間ほど
・羊水検査
実施時期:15~16週
検査対象:染色体疾患全般
精度:100% (モザイク型を除く21トリソミーの場合)
結果報告までの期間:2~3週間ほど
絨毛検査
「絨毛(じゅうもう)」とは内臓の内側、または外側を覆う膜から突出した細かい突起のことを指し、小腸や胎盤などにあります。この検査では胎盤の絨毛のことで、これを採取します。
検査は赤外線で胎盤やお腹の赤ちゃんの位置を確認しながら、局所麻酔をしたお腹に針を刺し絨毛を採取します。胎盤の位置によっては、膣にカテーテルなどを挿入し採取することもあります。
採取した細胞から染色体の形と数の変化を確認し判断を行います。
絨毛検査の検査対象
染色体疾患全般
絨毛検査の費用
約10~20万円
絨毛検査の注意点
お腹に針を刺すため、破水、出血、子宮内感染、早産、合併症の発生、流産や赤ちゃんの死亡のリスクがあります。
また、この検査で全ての病気が明らかになるわけではなく、選定性心疾患や口唇口蓋裂など染色体異常に関連しないものは分かりません。
加えて、採取した細胞は正確には胎盤の細胞であり、胎児の細胞ではないので検査結果が正確に出ないこともあります。例えば、胎盤のみ正常な染色体と異常な染色体が混在する「染色体モザイク」であった場合、検査結果は陽性でも赤ちゃんに染色体異常がない、といった場合があります。この確率は1%程と言われています。
羊水検査
「羊水」とは赤ちゃんがお腹にいるときに、赤ちゃんを包む羊膜の中を満たしてる液体のことです。
妊娠の初期の羊水は羊膜から染み出た液体ですが、赤ちゃんの腎臓が動きだす妊娠中期以降は赤ちゃんの尿で羊膜の中を占めるようになるそうです。羊水は赤ちゃんを外界からの衝撃から守ったり、赤ちゃんが肺を膨らませる先週をしたり、出産のときに赤ちゃんが産道を通りやすくする役割があります。羊膜が赤ちゃんに由来する組織でできており、羊水にも赤ちゃん由来の細胞が存在しています。
検査は絨毛検査と同様、超音波で赤ちゃんの位置など確認しながら、お腹に針を刺し羊水を採取します。局所麻酔はするところが多いようですが、しないで実施するところもあります。
採取した羊水から赤ちゃん由来の細胞を培養し、染色体の形と数の変化から判断を行います。
羊水検査の検査対象
染色体疾患全般
羊水検査の費用
約10~20万円
羊水検査の注意点
絨毛検査と同様、流産などのリスクを伴うこと、全ての疾患が明らかになるわけではないこと、「染色体モザイク」等による検査の限界があることが注意点となります。
以上が出生前診断に関するまとめになります。
ダウン症児の父として思うこと
ダウン症のような染色体異常に限らず、生まれてくる赤ちゃんが先天性疾患(障害)を持っている確率は、全出生数の3~5%と言われていて、その中で出生前診断で見つけられるのは、まだ全体の4分の1ほどだそうです。
とはいえ、NIPTもそうですが、技術の進歩によって出生前診断の精度や見つけられる疾患の種類は今後も増え続けていくのだろうと思います。
本来は生まれてくる前の備えとしての意味合いが強かったはずの出生前診断ですが、現在は生むかどうかの判断として利用され始めているのかと思っています。
人、家庭それぞれ様々な事情や背景があります。出生前カウンセリングを受け、人工妊娠中絶の実施は「母体の健康」「経済上の事情」「暴行、脅迫等のよる妊娠」などの理由に限られること、実施時期も妊娠22週未満に限定されていることなどを理解したうえで、出生前診断を受けるのか否か、判定の結果によってどうするのか、などよく考えて、判断をしていって欲しいと思います。
現在ダウン症児の父である私のことを少し。
我が家では出生前診断は行いませんでした。大丈夫であろうと思っていたこと、費用面で抵抗があったことが主な理由だったと思います。次男が生まれ、ダウン症であることを知ったときは衝撃的でした。その事実を事前に知れるという面だけ見ても、出生前診断を受けることについては私は否定的な立場にはいません。
ダウン症児との生活はというと、想像していたよりも驚くほど普通です。合併症がほとんどないことも幸いし、落ち着いた生活が出来ています。そういった家庭もあるという一例としてみてもらえればと思います。
将来への不安は多少あります。自分のこと、奥さんのこと、健常の長男のこと、障害児の次男のこと、全て不安はあります。障害児だから、という特別な感情もないことはないですが、先天性疾患がない健常者でもいつ後天的な疾患で障害者になるかは分かりませんし、将来への不安、という面は平等にあります。
不安はありますが、家族の将来はあまり悲観的にみていません。多様性を認める社会が今後広まっていく予感がしているからです。だって、そのほうが生きやすいと思うんです。人間は楽なほうに動いていくものだと思うんです。
多様性というとLGBTQなどが注目されますが、障害などの個々人の違いも受け入れられていく流れが今後出来てきます。データというより、肌で感じている雰囲気、流れです。見かたがあまい、という意見ももちろんあると思いますが。
このブログもそうですが、障害の有無に関係なく、それらが受けいれらる社会が作られていくこと、その環境がちゃんと見える場所にあることを目標に、今後の生活を送っていきたいと思っています。