「人口妊娠中絶」と「問題点」と「思うこと」の話。

「人口妊娠中絶」と「問題点」と「思うこと」の話。 ダウン症のこと

10年ほど前、私は奥さんと将来の話をしました。その際に子供が2人は欲しいよね、という話をしたのを覚えています。

今、私たちは1人は健常児、1人はダウン症の障害児の子育てをしています。障害がある子供との生活を10年前にイメージしていたわけではありませんが、今の生活は幸せだと思いますし、描いていた家族構成になったことは恵まれているなと感じます。

しかし、様々な理由による望まない妊娠、予期しない胎児の状態というのは起こりえることで、多くの人が難しい決断を迫れれる状況になります。

子供を産むか、産まないかという大きな決断です。

ここではその決断の一助となるよう、人口妊娠中絶に関する概要やデータをまとめ、日本の制度の課題、世界の動き、またダウン症児の父として思うことをまとめました。

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人口妊娠中絶とは何か?

人工妊娠中絶(以下、中絶)とは何でしょうか?

中絶については「母体保護法」という法律で以下のように定められています。中絶はこの法律を順守して行わなければなりません。

母体保護法 第1章 第2条

中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保持することのできない時期に、人工的に、胎児及びその付属物を母体外に排出すること

中絶とは母体から胎児を人工的に出すこと、となっていて、それを行う時期により方法や解釈など変わってきます。こちらは後で詳しく書きます。

また、中絶を実施するかどうかは本人とパートナーの判断次第かと思われるかもしれませんが、母体保護法上は以下の適応条件に当てはまったときのみ中絶は実施することができます。

母体保護法 第3章 第14条

1. 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、中絶を行うことが出来る。

(1) 妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
(2) 暴行、若しくは脅迫によってまたは抵抗もしくは拒絶することが出来ない間に姦淫されて妊娠したもの

2. 前項の同意は、配偶者が知れないときもしくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなったときには本人の意志だけで足りる。

つまり、中絶は「産みたくないから産まない」という意思によって決まるのではなく、産むことが「母体を身体的、もしくは経済的に苦しめるものであること」、または妊娠が「暴力行為などによる望まないものであること」のいずれかに該当することにより実施できると法律では定められています。

中絶の実施件数、傾向は?

中絶の実施件数、およびその傾向はどのようになっているのでしょうか。厚生労働省の令和元年までのデータから、最近10年間(2年おき)の発生総件数と女子人口1000人当たり件数を抜粋しました。

中絶発生総件数の推移(単位: 件)

令和元年平成29年平成27年平成25年平成23年
総数156,430164,621176.388186,253202,106
20歳未満12,67814,12816,11319,35920,903
20~24歳39,80539,27039,43040,26844,087
25~29歳31,39232,22235,42937,99942,708
30~34歳29,40233,08238,88436,75739,917
35~39歳28,13129,64131,76534,11537,648
40~44歳13,58914,87616,38616,47715,697
45~49歳1,3991,3631,3401,2371,108
50歳以上1111182221

女子人口1000人当たりの発生件数の推移(単位: 件)

令和元年平成29年平成27年平成25年平成23年
総数6.26.46.87.07.5
20歳未満4.54.85.56.67.1
20~24歳12.913.013.513.314.1
25~29歳10.410.511.211.312.0
30~34歳8.99.510.09.810.0
35~39歳7.67.67.77.67.9
40~44歳3.23.23.43.43.4
45~49歳0.30.30.30.30.3

発生件数、人口当たり件数どちらも同様の傾向が見られ、ここ10年は減少傾向が続いています。

年齢帯別にみると、最も中絶が発生しているのが20~24歳で、減少傾向はあるものの依然として高い実施件数になっています。

一方で、20歳未満(15歳~19歳)は10年で実施件数、人口当たり件数ともに半数近くになり、減少傾向が強く見られます。

35歳以上になると、実施は少ないものの減少傾向は鈍化しています。

ここには10年のデータ比較のみ載せていますが厚生労働省資料にはもっと前からのデータもあります。そのデータも見てみると、一時的な増加はあっても30年にわたって継続的な減少傾向が見て取れます。ただし、20歳未満を除いて、他の年代では減少の度合いは弱まっており、横ばいに近くなってきています。

中絶や避妊の話は昔よりも耳にすることが増えてきたように思います。減少傾向はこういった取り組み、意識の変化の成果なのだと思います。横ばいになってきているということはその対策が一巡したということか、若しくは今後も継続して残る一定数の需要がこの程度ということかもしれません。

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妊娠時期による中絶の方法とは?

中絶の判断をするにあたって、実施する時期によってその方法や意味が大きく変わってきます。対処を迷う一日の差が大きな意味を持つことにもなるので、とても大切なところです。

中絶の手術は母体保護法指定医でなければ実施できないことになっています。

妊娠初期の中絶

妊娠初期とは妊娠12週未満の時期を言います。

この時期の中絶は「掻爬法(そうは法)」、もしくは「吸引法」のどちらかで行われます。

掻爬法はお腹から胎児と胎盤を掻き出す方法、吸引法は器械的に吸い出す方法です。日本では現在、掻爬法が主流だと言われています。

いずれにしても、麻酔注射後に子宮口を広げ処置を行い、手術は10~15分程度、通常は入院はしません。

中絶手術には保険は適用されないため、費用は8~15万円ほどになります。

中絶を行う場合は、母体への様々な負担をさけるため妊娠初期の実施が推奨されています。

妊娠中期の中絶

妊娠中期は妊娠12週~22週未満(21週と6日)までをいいます。「中期」とはいえ、母体保護法で中絶は22週未満までに行わなければならないことになっています。

この時期の中絶はあらかじめ子宮口を開く処置を行った後、子宮収縮剤で人工的に陣痛を起こし、流産させる方法をとります。つまり、この時期の中絶方法は「出産」にあたります。

そのため。中絶手術後は役所に死産届を提出し、胎児の埋葬許可書をもらう必要があります。

個人差はあるものの、手術で体の負担も大きくなることから、数日間の入院が必要になります。この入院期間では母体の体調のみでなく、胎児が出た後の子宮の戻り具合も注視する必要があるため日数が必要になります。

費用は入院費など合わせて30~50万円ほどかかりますが、健康保険に加入している場合は中期の中絶手術は「出産育児一時金」の支給対象になります。

出産育児一時金を申請することにより、42万円が支給されます。

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問題点は何か?

中絶は新しい命について判断することで、多くの人が真剣に考え、様々な意見や立場を持っています。そのため、課題や問題点が多くなるのかもしれません。いくつかを整理してみたいと思います。

法と医療の解釈の問題

さきほど中絶は母体保護法により、産むことが「母体を身体的、もしくは経済的に苦しめるものであること」、または妊娠が「暴力行為などによる望まないものであること」のいずれかに該当することにより実施できる、と書きました。

例えば、未成年が妊娠してしまった場合は、主には経済的な理由により中絶できることになるようです。

では、胎児に障害があることが分かった場合、障害を理由に中絶することは母体保護法では許容されているでしょうか?

これについては裁判所など司法の立場では障害による中絶が合法であるかは判例が分かれています。

一方で、医療の現場では障害を理由とした中絶は実施されているようです。医療の世界では胎児の障害が「母体を身体的、経済的に苦しめるものである」と解釈されているということです。

医療の現場でこのような解釈が行えるようになったのにはは出生前診断の普及があると言われています。

中絶は妊娠12週未満までを初期、22週未満までを中期とすると先ほど書きました。

出生前診断も段階がありますが、非確定検査(NIPT)を妊娠10週目で行ったとして、検査結果が出るまでに2週間かかったとします。そこから、確定検査を12週に受けたとして、結果が出るまでに3週間かかったとしましょう。確定検査を実施したとしても。妊娠15週には胎児の障害が分かります。

もちろん全ての障害が分かるわけではないですが、22週未満というタイムリミットよりも2か月弱も前に結果が出ることになります。

この時間的余裕が医療としての中絶の判断を可能としました。

こういった現状がある中で、法と医療で解釈が必ずしも合致していない状況が続くことは。社会での中絶に対する理解の障壁となる可能性があり、整理されるべき問題だと言えます。

倫理の問題

人の命がかかわってくる問題なので、倫理問題というものがどうしてもあります。

政治的、宗教的な観点も加わり、ひとえに「倫理」といっても様々な角度からの議論があります。

主なものでは「胎児をいつから人と見るか」、「選択はプライバシーの範疇か」、障害が関連した場合は「命の選別に当たらないか」といったものがあります。

お腹の中の胎児はいつから「人」として認識されるのでしょうか。妊娠した瞬間からを人とする考え方もありますし、死産届を必要とする妊娠12週からとする考えもあるでしょう。もしくは生まれてくるまではあくまで「胎児」であり、「人」とは違うものであるという解釈もあります。

また、中絶を行うか否かの判断は個人が選択する権利で実施されるものでしょうか、それとも、命に係わる判断は国として法の中で判断されるべきものでしょうか。

そして、障害を発端とした中絶は、生まれてくる命を大人の判断で都合よく選択していることにはならないでしょうか。また、その選択は今、生きている障害を持った人たちへの差別へとつながらないでしょうか。

倫理問題には簡単に出る答えはありません。また、地域や時代が違えば答えも変わってきます。正解が難しい問題なので、考え続けていくことが唯一の解決となるのかもしれません。

日本の中絶方法、選択肢の問題

中絶する方法は「掻爬法(そうは法)」、もしくは「吸引法(手動と電動がある)」と書きました。日本では掻爬法(そうは法)が主流になっていますが、実は海外では吸引法が主流です。

また、多くの国で認められている中絶薬も、日本では認可されていません。

WHOは2012年の段階で「掻爬法は時代遅れであり、(真空)吸引法、または薬剤による中絶に切り替えるべき」という勧告を出しています。

中絶薬は妊娠初期の中絶方法として世界では有効性が認められいて、世界ではアメリカ、イギリス、スウェーデン、タイ、台湾、インドなど65か国で認可されています。傷みや出血を伴うことがあるため注意が必要とされていますが、そもそも日本では選択肢ともなっていません。

更に、先ほども書きましたが日本では中絶は保険の適用外であり、高額な医療費がかかります。海外では無料で中絶を行うことができるところもあり、日本はかなり高額と言えます。

明確な理由はありませんが、どこかタブー視されてきた日本の中絶は世界の中でも異質なものになってきているように思います。

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今後の中絶はどうなるか?

今後、日本の中絶はどのような流れになっていくでしょうか?世界から見ると異質になっている日本の中絶は徐々にその事実が広まってきているように感じます。

そのため、今後は日本でも世界の動きがより注目され、そこに追従するように動いていくのではないかと思います。

  1. 保険の適用
    世界では中絶が保険適用となる国が多くあります。一部、無料で行える国もあります。女性への負担軽減、全体の意識の改革のためにも、まずは保険適用が必要だと思います。
  2. 中絶方法の認可
    先ほども書きましたが、世界では主流となっている薬による中絶薬が選択肢として広がってくるのではないでしょうか。吸引法も同様です。
  3. 性教育の充実
    これが世界と比べて日本が最も劣っている点ではないかと思いますが、中絶や避妊を含む性教育はもっと広まる必要があるように感じます。
    例えば、フランスでは6~18までの学生に年3回の性教育が義務付けられており、これらを「サイエンス」の授業として行うそうです。性に関することを神秘的なことではなく、科学的な事実として説明し理解してもらうことで、中絶や避妊、妊娠を本人たちの選択の中でコントロールできるようになります。

これらは女性の権利として注目され議論がされています。

しかし、一方でポーランドや、アメリカ・オハイオ州では妊娠の週数に限らず中絶を禁止する法律も誕生しています。

これからもたくさんの変化が起こっていくかと思いますので、日本ではどのような流れになっていくのか注目していきたいと思います。

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ダウン症児の父として思うこと

ここまで中絶について、現状や課題、方向性についてまとめてきました。

最後に中絶について少しは学んだダウン症児の父として思うことを書きたいと思います。

まず、私はどこか中絶がタブー視されている現状が変わり、一つの選択肢として世間に認識されるようになることを望んでいます。

女性が自分の権利の一つとして中絶を行うことができるように保険の適用や新たな中絶方法の採用など、制度が整ってほしいなぁと思いますし、制度が整うことで世間の認識に変化が生まれるといった循環が起きてほしいです。

また、それに付随して子供たちへの性教育が確立されるといいと思います。自分とパートナーの身を平等に守れるような知識を早いうちから身に着けることが、現状の制度を変える大きな流れも生むのでないかと思います。これについては、一部で子供に性に関する知識を与えることは余計な危険を生むという反論があるのだと思いますが、すでにこういった教育が実施されているフランスや諸外国でその危険を裏付けるような結果は出ていません。

一つ懸念があるのは中絶がより特別なことではなくなった場合に、障害児が生まれること、障害児を生む選択をすることが拒絶されるような流れが出来ないか、ということです。

先ほどのNIPTなど出生前診断でわかる障害は限られていますし、何より、障害があっても子供を産む選択をすることも、中絶をするという選択と同様に個人の権利です。

産む判断にも、産まない判断にもそれぞれの背景がありますし、他人には分からないものがたくさんあります。

どのような判断がされたにしろ、その判断の尊重と、重大な決断をした方へのリスペクトがある社会が生まれることを願っています。そういった社会が生まれるように、私も日々の生活を送っていきたいと思います。

最後に。

中絶について全般的な内容をまとめました。

ここには書ききれなかった制度や背景などがまだたくさんあります。

このブログを読んでくれた方に中絶について少しでも考える機会ができて、少しでも調べる時間が生まれてくれればうれしいです。

私も今回のまとめでとても勉強になりました。

もっと日本で、これまでタブー視されてきた中絶や性教育など命について考える機会が増えてほしいと思います。

コラム: 未成年者の中絶について

未成年者の中絶は他の年代と比較しても年々減少していく傾向が顕著でした。

精神的にも経済的にもまだまだ不安定な年代が予期しない大きな決断をせまられることを回避できているというのはよいことだと思います。

ここで書いた内容が少しでもその年代の疑問解消につながってくれればと思います。

本文中ではあまり書きませんでしたが、母体保護法指定医がいる病院には未成年の方から似たような質問が多く寄せられるようです。
回答のみですが、いくつかピックアップしたいと思います。

1. 原則としてバートナーの同意書と、親の同意書が必要です。ケースによっては同意書がなしでも手術が可能となりますので、病院に連絡してみてください。
2. 中絶手術、とくに吸引法であれば次回の妊娠には影響はほとんどないと言われています。
3. 手術は保険認可ではないので、保険組合の郵送物などに手術の名前が載ることはありません。
4. 初診ですぐに手術は原則出来ないようですが、これも病院に相談してみてください。
5. 手術の翌日でも激しい運動をしなければ、通学、出勤は可能です。

いずれにしても、中絶を検討するのであれば早めに病院に連絡するのがよいです。

同意書に関しては、その紙を書いてもらうという事務的なことよりも、妊娠したこと、中絶を考えていることを理解してくれる人がいる精神的な安定が得られることがポイントなのではないかと思います。

すでに親になった身としては子供がこういった状況を話してくれるような信頼関係や、冷静に聞いてあげられるような知識を付けたいと思っています。

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