障害児の「成年後見制度」と「問題点」と「対策」の話。

障害児の「成年後見制度」と「問題点」と「対策」の話。 社会制度のこと

こんにちは、Mituso(@Mitsuo29817853)です。

親は子供を「親権」によって守ることが出来ます。

この親権によって、子供が親の知らないところで思いもよらない契約を結んでしまった場合に、親は子に代わってその契約を破棄することもできます。

では、子供が成人した場合はどうでしょうか?

子供の成人によって親は親権を失ってしまいますので、原則、成人した子供の自己責任で全てのことを実施しなくてはいけなくなります。

これは障害を持っている子供の場合も同様です。

しかも、2022年4月から「成人」は18歳からになりました。

障害を持った子供のこれらの問題を解決する現在の制度が「成年後見制度」です。

これは簡単に言うと親に代わって子供の財産管理を行う人をつける制度です。

では、これで安心かというとこの制度にも不安や問題点があります。

ここでは、成年後見制度がそもそもどういったものか、どこに問題点があるか、その対処法はどういったものかなどをまとめました。

この記事全体にわたって参考にさせていただいたのは以下の本です。

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成年後見制度とは?

そもそも成年後見制度とはどういった制度でしょうか?

成年後見制度

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。
また、自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。
このような判断能力の不十分な方々を保護し、支援するのが成年後見制度です。
 (法務省HPより

つまり、何らかの理由で自分の財産管理や契約を行うことが出来ない人を救済するための制度、ということになります。

では、もう少し具体的に誰がどのような支援をするのでしょうか。

この制度を利用すると、家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人または成年後見人が、本人がした不利益な法律行為を後から取り消すことができます。
ただし、自己決定の尊重の観点から日用品(食料品や衣料品等)の購入など「日常生活に関する行為」については、取り消しの対象となりません。
法務省HPより

家裁がえらんだ後見人という人が、日常行為を除いてサポートをしてくれる、ということになっています。

確かにこの制度だと問題はなく安心なように思います。

家庭裁判所が人選をするのであれば、ある程度信頼のおける人物が選ばれることが想像できます。

では、先天性障害により生まれた時から成年後見制度の対象となり得る児童には、生まれた時から後見人が付くかというとそうはなりません。

これは親の「親権」があるからです。

親権

未成年の子供の利益のために、監護・教育を行ったり、子の財産を管理したりする権限。親権は子どもの利益のために行使することとされています。
 (法務省HPより、一部追記)

つまり、先天性の知的障害や精神障害がある子の場合、親権があるうちは子どもの財産管理は親が実施することができます。

これは、裏を返せば、子供が成人をした時点で、たとえ親であっても子供の財産管理を実施することはできず、家庭裁判所が選んだ人物とはいえ、基本的には他人である後見人に権利を預けるということです。s

成年後見制度はそもそも認知症などの高齢者の財産を守るために作られたものだと思いますので、制度自体が悪だとはもちろん思いません。

しかし、障害児とその親という目線で見ると、これまで親が子供と作ってきた生活や価値観のなかに、財産管理という強い権限を持った第三者が入ってくることにはリスクがあるように感じてしまうのです。

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後見人がつく基準は?

先ほど「判断能力が不十分」な方々には後見人がつく、とありましたが、「判断能力が不十分」とはどのような状態でしょうか?

民法上はこの「判断能力」のことを「事理弁識能力」と言い、意味は自己の行為の結果について認識し、判断する精神的能力のことを言います。

つまり、法律行為などの自分が行ったことがどの程度理解できるかの程度で後見人がつく、ということです。

この理解できる程度が狭い方から順に「後見」「保佐」「補助」という判定が行われ、それぞれに「後見人」「保佐人」「補助人」がつき、役割や任される範囲が変わってきます。(後述します)

理解の程度の判定は家庭裁判所が行います。

親族などが裁判所に後見等の申立をする際、医師が作成した診断書を参考に「後見」「保佐」「補助」のいずれかを求めるかを決め、家庭裁判所はそれらを考慮して判断を行います。

ちなみにこの診断書は厚生労働省により書式が定めれています。

診断書には程度の判定の根拠として以下のような項目があります。

  • 見当識の障害の有無 あり or なし
  • 他人との意思疎通の障害の有無 あり or なし
  • 理解力・判断力の障害の有無 あり or なし
  • 記憶力の障害の有無 あり or なし
  • その他

「見当識」とは「いま、自分がどこにいるか」「いま、どんな季節か」「いま、対面している人はだれか」など自分のおかれた状況を理解、判断する能力のことです。

この見当識だけ考えても、かなり判定が難しいことが想像できます。

「後見」「保佐」「補助」とは?

判断能力(事理弁識能力)の程度による区分けで、程度が重い順に「後見」「保佐」「補助」の順になります。
後見・・・重度の知的障害など本人に判断する能力がない
保佐・・・判断力が不足するものの、日常生活に問題がない
補助・・・普通の人よりも判断能力は多少不足するものの日常生活に問題がない

また、これに合わせて「後見人」「保佐人」「補助人」がつくことになり、本人がもっている能力に応じて、サポートする後見人などの権限が変わってきます。与えられる権限は大きく分けて三つです。
代理権・・・財産の管理など重要な行為を本人に代わって行う権限
同意権・・・財産の管理などの重要な行為を本人が行う場合は、代理人の同意を必要とする権限
取消権・・・本人が代理人の同意を得ないで行った契約や取引を取り消す権限

・後見人
 代理権 ○  同意権 ×  取消権 ○
・保佐人
 代理権 △  同意権 △  取消権 △
 家裁が認めた行為や民法13条1項の行為のみ
・補助人
 代理権 △  同意権 △  取消権 △
 家裁が認めた行為や民法13条1項の一部の行為のみ

法定後見制度と任意後見制度とは?

ここまで成年後見制度の概要や後見人についてまとめてきましたが、実はこれらは「法定後見制度」とよばれるもので、後見制度にはこれとは別に「任意後見制度」というものもあります。

この任意後見制度は後述する成年後見制度の問題点の対策として重要なものです。

法定後見制度は「本人の判断能力が低下した後」に対応し効力を発揮するものですが、任意後見制度は「その前」に対処するもの、というのが大きな違いです。

2つの制度の比較のため、まず、これまでまとめてきた法定後見制度について整理します。

法定後見制度

  1. 事前に必要な手続き
    なし
  2. 効力を発揮する時期
    親族により家裁に申し立てがある + 後見等の開始の審判が確定した時
  3. 制度に対する本人の同意
    不要
  4. 後見人等の選任
    家庭裁判所が決定
    (申立書に候補を書くことはできるが、候補者以外(弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選ばれることも多い)
  5. 後見人等が付与される権限
    「後見」「保佐」「補助」により家裁の判断や民法に準じる

これに対し、任意後見制度は本人の判断能力があるうちに、将来を見越して任意後見人となる人との間で公正証書で契約を結ぶことから始まります。

任意後見制度

  1. 事前に必要な手続き
    公正証書により任意後見契約の締結 + 契約の登記
  2. 効力を発揮する時期
    本人の判断能力低下時期 + 任意後見監督人が選任されたとき
  3. 制度に対する本人の同意
    必要
  4. 後見人等の選任
    本人
    (ただし任意後見監督人は家裁が選任)
  5. 後見人等が付与される権限
    任意後見契約書で定めた行為
    (ただし、取消権はなし)

任意後見契約は本人が希望した人物が契約により後見人になります。

後見人を自由に選定できることは任意後見制度のメリットではありますが、悪意のあるものが契約を結ぶなどのデメリットも予想されます。

そのため、選ばれた後見人に加え、後見人の事務を監督する「任意監督人」が家裁ににより選任されます。

また、法定後見人と任意後見人では権限の違いにも注意が必要です。

法定後見人は「本人の利益になることのみ」その権限を使います。

そのため、財産が失われる可能性がある積極的な投資などの資産運用を行うことは出来ません。

一方、任意後見の場合は契約書に運用について記しておけば資産運用が可能です。

ただし、任意後見にもデメリットがあり、任意後見人には取消件を付与することが出来ません。

そのため、本人がした行為を取り消す場合などは、任意後見契約を終了して法定後見に移行する必要があります。

法定後見人になることができない人とは?

1. 未成年者
2. 成年後見人等を解任された人
3. 破産者で復権していない人
4. 本人に対して訴訟をしたことがある人、その配偶者または親子
5. 行方不明である人 ((最高)裁判所HPより)

公正証書、公正役場とは?

任意後見契約を結ぶ場合は必ず公正証書でなくてはいけません。では公正証書とは何でしょうか?

「公正証書」とは法務大臣に任命された公証人が作成する公文書のことで、契約や遺言なでの事項を公証人に証明させることにより、個人を含む民間の法律紛争を未然に防ぐことを目的としています。作成された公正証書は公正役場に保管されます。
また、公証人は裁判官や検察官、法務局長などを永く務めた法律の専門家であり、準公務員という扱いになります。
つまり、法律の専門家である公証人に内容が確認された契約を結ぶことで、その内容を確かなものにする必要があるということです。
法務省HPに説明がありますが、少し砕いた説明としました。

ある程度の大きさの街であれば公正役場が設置されていますので調べてみてください。

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成年後見制度の問題点

法定後見と任意後見についての説明をしましたが、例えば自分が知的障害児の親であった場合、法定後見制度の問題点は何でしょうか?

それは何も対策を打たないと子どもが成人になった瞬間、子供の財産管理の権限を第三者に委ねることになってします、ということです。

第三者とはいえ、法定後見人は司法書士や弁護士などの専門家が多く選ばれます。

一見すると問題ないように思うこの制度について、改めて問題の詳細を考えてみます。

  1. 法定後見人が子供のことを理解するとは限らない
    希望した人が法定後見人になってくれればよいですが、家裁が選ぶものなので望みが叶うとは限りません。選ばれた後見人が子供の趣味や生きがいにどの程度理解を示してくれるかは未知数で、良かれと思って子供に残していた財産が後見人が入ることによって容易に使えなくなる可能性があります。
  2. 法定後見人は費用が高い
    法定後見人には報酬を支払う必要があります。支払う報酬は本人の財産にもよりますが、専門家が後見人になった場合、月2~6万円、年換算で24~72万円となります。例えば月4万円だとして、20歳~50歳の30年間に払う報酬は約1500万円になります。また、これとは別に付加報酬が発生するケースもあります。
  3. 後見人の変更は原則できない
    例えば希望した人が成年後見人に選ばれなかったことを理由に家裁に不服申し立てをすることは出来ません。また、成年後見の申し立てそのものを取り下げることも道められないことが多いようです。

もちろん、理解ある方が後見人についてくれ、費用面などの問題もクリアになっているというケースも多々あるとは思います。

しかし親としては様々なリスクがあることが分かってうえで、相性のよい法定後見人が選ばれることをただ黙って待っていてよいのか、と不安の残ります。

問題点への対処法

では、これらの問題点にはどのような対策があるでしょうか? いくつか挙げてみたいと思います。

  1. 任意後見制度を使い準備しておく
    冒頭で紹介した本の著者の方がとられている対策がこれです。
    親権があるうちに、子供の代理人として、旦那さんは奥さんを、奥さんは旦那さんを任意後見人として指名し、任意後見契約を結ぶ、というものです。筆者は「親心後見」と表現されています。
    こうすることで、両親が元気なうちは法定後見人がつくことを避けられます

    また、任意後見契約であることから、後見の開始時期を親が決めることも可能になります。例えば「事理弁識能力がなくなり、親が相当と認めた時」といったを契約書に入れておくことが出来ます。
    加えて、自分たちの次の任意後見人を選ぶ権限を持っておくことも可能です。これがないと、両親が認知症などになった際、次の後見人は法定後見人ということになります。
    費用面でみても、任意後見人である両親を監督する任意後見監督人への報酬は、専門職の法定後見人の半分程度になります。

    詳細は本で読んでみてください。
    公正役場によってはこの方法は認められないこともあるようですが、そのことへの対処法もあり、この「親心後見」は有効な対策になりえると思います。
  2. 複数の法定後見人を考える
    後見人は複数選ぶこともできます。
    親族が後見人となるメリットはすでに述べましたが、逆にデメリットもあります。後見人は財産管理や契約の締結を行うだけでなく、これらを家裁に報告するための書類作成といった事務作業を正確に行う必要があるため、この点は専門家のほうが優れています。
    そのため、最終決定は家裁次第になってしまいますが、本人の身の回りの世話や簡単な契約行為は親族が行い、専門的な財産管理や事務作業は専門職の後見人に任せるといった役割分担を行うことも可能です。

いずれにしても、子供が成人を迎えるまでに、備えをしておくが大切になります。

最後に。

今回は成年後見制度についてまとめました。

制度自体が悪なわけではありませんが、障害児の親として、全てに満足のいく制度ではありません。

子どもの事理弁識能力、両親の健康や認知症の問題など将来のことを考え、いかにイメージをして準備をしておくかが大切なポイントになるのだと思います。

成年後見制度も世間でたびたび話題になり議論されています。

成人の年齢が18歳になったように、これから様々ン変更が行われ、障害児を持つ家庭にも満足のいくものになる可能性も十分にあります。

その変化のながれをつかんで、変更される内容を理解していくことを今後続けていきたいと思います。

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