ダウン症。
おそらく言葉では誰もが一度は耳にしたことがあると思います。ですが、その原因や特徴、どういった生活を送っているかは当事者しか分からないところがあります。むしろ、当事者になってからも分からないことも多く、私もダウン症児の親になって数年たちますが、今でも手探りです。
ですが、その手探りの状態がダウン症児に限ったことかというとそんなこともありません。健常児の長男に対しても、ダウン症児の次男に対してもやっぱり手探りです。
ダウン症や障害に対して正しく理解することで、健常児と共通するところや、気を付けていくことなど整理していくことが出来ます。
この記事は、ダウン症に関する一般的な知識や特徴、どういった支援があるかをまとめ、まずは広く浅く理解をしてもらえるように書きました。
記事全体にわたって参考にさせていただいたのは以下の書籍です。
タイトルの通り、ダウン症の基礎知識や、療育、健康管理や生活支援など広く書かれています。文字数も少なく読みやすいので、まず読んでみる本としてとてもよいと思います。
ダウン症とは?
そもそもダウン症とはどういっものか、検索するとだいたいは以下のような説明が書いてあると思います。
ダウン症は赤ちゃんの細胞の中の21番染色体が1本余分になること(21トリソミー)が原因で発症します。ダウン症の赤ちゃんは600~700人に一人の割合で生まれていて、遺伝することは少なく、家計内にダウン症の子供がいなくても生まれることがあります。ちなみに正式名称は「ダウン症候群」で、最初の報告者であるイギリス人のジョン・ランクドン・ダウン医師の名前により命名されています。
調べたものによっては、ダウン症は「遺伝しない」と書いてあるものもあるかと思いますが、ダウン症には型・タイプがあり、その区分によっては遺伝すると考えられているものもあります。ただし、それはかなり少数なので、大多数は遺伝ではなく染色体の突然変異が原因となっています。
ダウン症の型・タイプについては以下を参考にしてください。
繰り返しになりますが、ダウン症のほとんどは明らかな原因がなく、突然変異によるものと考えられています。高齢出産で発症率が高くなることから年齢が一つの目安になるとは言われていますが、それでも「なぜ」ダウン症になるかは現在まだわかっていません。
細胞、染色体、DNAとは何か?
では、ダウン症の原因に出てくる「細胞」「染色体」、似たような言葉で「DNA」とは何でしょうか?
大きいものから順に、
「細胞」・・体を構成する「単位」。「部屋」や「袋」のようなイメージ。人間の体は60兆個の細胞が集まってできている。
「染色体」・・一つの細胞に23対46本の染色体が含まれていて、遺伝子(DNA)が糸状になり、折りたたまれ凝縮したもの。長さは合計2メートルにもなり、「生命の設計図」といわれる。そのため、他の動物や植物にも存在する。染色体は「線」「棒」のようなイメージ。
「DNA」・・遺伝子(遺伝情報)をもっている物質(遺伝情報を持っていないDNAも一部ある)。DNAは「点」、「小さな塊」のようなイメージ。
となっています。
「小さな塊」で、情報をもっているDNAが連なって、「線」になって生命(体)の設計図となったのが「染色体」。
それをしまっている部屋が「細胞」、といったイメージです。
ダウン症の特徴とは?
ダウン症は21番目の染色体が3本ある状態です。染色体は「生命の設計図」と言われるように体を作るための情報を持っているため、21番目の染色体が共通して3本の状態であるダウン症ではある程度共通する特徴を持つことになります。
- 身体的特徴
後頭部が絶壁になっている、鼻が低い、手のひらに「ますかけ線」がある、目が二重でつりあがっているといった特徴を示すことが多いです。 - おとなしく反応が弱い
ダウン症の赤ちゃんはよく寝て、あまり泣かず、手がかからないと言われます。自分から語り掛ける能力が弱いだけでなく、相手からの語り掛けなどにもあまり反応しません。 - 筋力が弱い
母乳やミルクに吸い付く力が弱く、なかなか飲みません。また、関節や筋肉が柔らかく、抱くと「おもちのようだ」と表現する人もいます。
これらの特徴があります。
ただし、注意が必要なのは一般的にこういった特徴を持つことが多い、というだけで個人差があるということです。また、成長によってその特徴も大きくかわってきます。
我が家の話を少し。
現在3歳になるダウン症の次男ですが、身体的特徴はだいたい当てはまっています。0~1歳の頃は確かに反応が弱く、筋力も弱かったように思います。3歳になった今は、些細なことにもすぐ反応しますし、指差しやジェスチャーを使って自己主張はかなりします。こちらの呼びかけもある程度理解してくれますし、アグレッシブに長男と遊んでいます。
ゆっくりではありますが、間違いなく成長はしていることを日々感じています。
生まれたばかりの頃は「ダウン症の特徴」が目立ちますが、やはり成長の過程でいろいろ変わってきますので、健常の子と同じく成長を見据えた関わりが大切なのだと思います。
家庭ではどんなことをする?
では、家庭ではどんなことをするのか、というと少しの工夫が必要になってきます。合併症などで医療的なケアが必要な場合はまた異なりますが、反応が弱い、大人しいといった特徴をもつダウン症児のために、積極的にかかわっていくことがより大切になります。
冒頭で紹介した本の著者は「びっくりさせるくらいの気持ちで」と表現されています。
私もそれに賛成です。
なかなか反応が見えないからといって関わることがやめてしまうのではなく、いろいろと試してみるのが良いのだと思います。
例えば、オムツを替えるときや、遊ぶときに赤ちゃんの体によく触れたり動かしたり、名前を少し大きな声で読んだりといったことです。これを続けて反応が引き出せるようになると、子供にも親にもよい循環が生まれてきます。
特にダウン症の診断を聞いて間もないころは、親がなかなか子供に向き合えないこともあるかもしれませんが、積極的に赤ちゃんと触れ合うことは赤ちゃんだけでなく、親にも大切です。
生活の支援は?
ダウン症の子供と生活していくことを考えた際、様々な不安があると思います。ただ、子育ては家族でするものですし、社会全体でするものでもあります。
様々な支援制度やサービスがありますので、それらを利用しながら将来を考えていくのがよいと思います。利用できる制度、サービスの一部は以下のようなものです
障害者手帳(療育手帳)
取得することによって様々な公的サービスを利用することが出来るようになります。手帳の取得は義務ではありませんが、受けられる利益が大きいサポートだと思います。
特別児童扶養手当
身体・精神に障害のある子どもを持つ父母、養育者に給付される手当です。障害者手帳を持っていなくても申請可能です。
障害年金
20歳から受給できる年金です。申請に早めに準備をしておくことが大事です。
障害児通所支援サービス
自宅外での情報収集や、子供に刺激となる場所です。
医療保険
障害児でも加入できる医療保険は増えています。
成年後見制度
子供が成人を迎え、親が親権を失うことを理解して備えておく必要があります。
子供の就学
義務教育からその先に向けて、まずは就学先にどのような選択肢があるのか理解することが大切です。
就労支援
障害者が就労していくためのサポート体制は十二分に活用していくべきです。
グループホーム
障害者が18歳になったときに自立へのステップとして選択する可能性があります。
相続と遺言
親が子供に何か残したいと思った時に理解しておく必要がある制度です。
生活保護
生活と命を守る最後の砦になる制度です。
また、地域の福祉担当窓口から周辺で受けられるサービスや療育に関する情報を受けることも可能です。まよった場合、まずは保健所か、児童相談所に連絡してみるのがいいと思います。
最後に。
ダウン症について概要をまとめました。
他の子と共通するもの、違いがでてくるもの、療育が有効なもの、早期に準備したほうがよいもの、長い目でみたほうがよいことなど考えることは多いですが、何とかなるものです。
我が家もダウン症の子が生まれて3年が経ちますが、生活は落ち着いています。何の心配もない、なんてことはもちろんありませんが、将来を落ち着いて考えているところです。
楽しいことも、つらいこともある子育てをゆっくりとしていける環境が誰しもに出来たらいいなぁと願っています。
コラム: ダウン症はiPS細胞によって治療が可能となるか?
2021年1月、鳥取大学を中心とした研究グループがダウン症などの治療に対し有効なiPS細胞と人工染色体を用いた世界初の応用例を発表した、という報道がありました。
遺伝子の変異を原因とする筋ジストロフィー患者に対して、欠けていた遺伝子を修復することにもすでに成功しているようで、ダウン症の治療も研究の目的とされています。
では、ダウン症の染色体異常に対する研究はどこまで進んでいるのでしょうか。
報道ではどこでも出ていなかったのですが、鳥取大学と共同研究をしている東京薬科大学にこの研究の概要が載っていましたので参考にさせていただきました。
結論から書いてしまうと、今の時点でダウン症の染色体異常を根本から解決するような方法は確率されていません。ただ、明るいニュースであることは確かです。
今回の研究で発表されたのは、「ヒトiPS細胞に染色体レベルでの遺伝子群を導入することに成功」しました、というものです。
これによって可能となったのは、正常なヒトiPS細胞に21番染色体を導入することで人工的に21トリソミーのiPS細胞を作製することが出来るということです。
これまでも21トリソミーのiPS細胞はあったそうですが、あくまでこれはダウン症患者由来のiPS細胞というだけでした。
人工的に21トリソミーを作れることによって何ができるようになるかというと、「正確な比較」をすることが出来るようになりました。
これまではダウン症でない人の細胞と、ダウン症の人の細胞を比較していましたが、これだとそもそも違う人の細胞なので遺伝的背景が異なり、様々な症状の原因遺伝子の解明が困難でした。
今回の研究によって、同じ遺伝的背景の正常細胞と21トリソミー細胞を比較することが可能となり、ここから症状の原因となる遺伝子の解明や症状改善のための治療法、治療薬の開発に繋がっていくようです。
これからも様々な研究や発表がされていくと思いますが、出来る限り、その内容を理解して流れを把握していきたいです。