こんにちは、Mituso(@Mitsuo29817853)です。
健常者は成長に合わせて学校に通い、就職したり、起業するなどして社会で生活をしていきます。
一方で、障害者も通常の学校に通うことが可能なこともあるでしょうし、特別支援学校や特別支援学級、他にデイサービスなど利用して、いわゆる学生生活は送ることが出来る制度はある程度整っているように思います。
では、学生生活を終えた後、社会的、経済的に自立した社会生活を送ることは可能でしょうか?
そもそもどういった制度があるのでしょうか?
ここでは、障害者の就労を支援する制度などについて紹介し、その課題や、私が考える将来像などまとめました。
参考にさせていただいたのは以下の書籍です。
ビジネス的視点をもち、一般企業と競争できる仕組みを障害者雇用の場で実践している会社を取材し、当事者のエピソードや思い、仕組みを通じて、現在の制度の課題などがまとめられている、とても勉強になる本でした。
障害者が就労する場所とは?
障害者が就労する場所としては、まず考えられるのは一般企業です。
民間企業の法定雇用率は2021年1月現在で2.2%、3月1日からはこれが2.3%に拡大することが決定しているため、従業員43.5人以上の会社は少なくとも1人、障害者を雇用する必要があります。
次の法定雇用率の改定は2023年といわれていますが、まだ予測値などは出ていないようです。
実際にこの法定雇用率がどの程度守られているかという話はさておき、一定の雇用の枠は一般企業から提供されています。
しかし、法定雇用率があったとしても、受け入れる会社側の制度や仕組みが各々の障害に適応できるかは分かりません。
また、障害者本人が健常者中心の会社で共に働くという環境に適用し続けられるかといった問題もあります。
そのため、一般企業で働くための訓練、もしくは障害者が就労を通して知識や能力の向上をはかるための就労支援制度があります。
この制度は「就労移行支援事業」「就労継続支援事業(A型、B型)」「就労定着支援事業」と4つに区別されています。
似たような名前ですが、簡単な違いは以下のようになります。
- 就労移行支援事業 一般企業への就職を希望する方が訓練をするための事業
- 就労継続支援事業 その時点で一般企業への就職が不安、困難が方が働くための事業(雇用契約を結ぶのがA型、結ばないのがB型)
- 就労定着支援事業 就労移行支援などの結果、一般就労した方をサポートする事業
それぞれの事業の特徴をもう少し細かく見ていきます。
就労移行支援事業
法律: 障害者総合支援法
全国施設数: 3,301施設(令和2年、厚生労働省調べ、ここ数年わずかに減少傾向)
利用者数: 40,288人(令和2年の利用実人員、厚生労働省調べ)
対象者: 65歳未満の一般企業への就職を目指す障害者(障害者手帳の有無を問わない)
利用期間: 原則2年間
特徴:
障害者が福祉施設ではなく、一般企業などで就職できるように支援するための事業(制度)です。
そのため、スタッフと就職やその先の希望などを相談しながら、パソコンスキル、ビジネスマナーなど必要な知識、能力の向上を目指します。
また、ハローワークや障害者就業・生活支援センターなどと連携し、就職活動のサポートも受けることが出来ます。
就労継続支援事業(A型、B型)
法律: 障害者雇用促進法
全国施設数: A型 3,929施設、 B型 13,355施設(令和2年、厚生労働省調べ、増加傾向)
利用者数: A型 89,351人、B型 359,732人(平成29年9月中の利用実人員、厚生労働省調べ)
対象者:
A型 年齢 18歳以上65歳未満の障害者で以下に該当する方
- 就労移行支援事業を利用したが、雇用に結びつかなかった者
特別支援学校(学級)を卒業後、雇用に結びつかなかった者
離職などで就労経験があり、現在は雇用関係のない者
B型
- 就労経験があり、年齢や体力で一般企業の雇用が困難となった者
50歳に達している者、または障害基礎年金1級受給者
就労移行支援事業等によるアセスメントプログラムを行っている者
期間: なし
特徴:
一般的な企業で働くことが難しい障害者に向けて、事業所(施設)で仕事をしながら職業訓練や生産活動を支援するための制度です。
A型は雇用契約を結ぶため、定められた給与が発生し、雇用保険などにも加入します。B型は雇用契約は結ばず、生産活動を行い、できたものに対して賃金が支払われる仕組みです。
就労移行支援事業のアセスメントとは何か?
B型就労継続支援に唐突にでてくる「就労移行支援事業によるアセスメント」についてですが、アセスメントとは「評価・査定・分析」といった意味で、B型就労継続支援施設で働くことを希望しているが、就労経験や障害基礎年金といった条件を満たしていない方が、就労移行支援事業によりB型就労継続支援を利用することが適切か否かの判断をするプログラムのことを指しています。
就労定着支援事業
法律: 改正障害者総合支援法
全国施設数: 1,228施設(令和2年4月、厚生労働省調べ、増加傾向)
利用者数: 10,568人(R2年4月の利用実人員、厚生労働省調べ、増加傾向)
対象者: 就労移行支援、継続支援、生活介護などを経て一般就労をした方で、就労による緩急変化により生活面・就業面の課題が生じており、就労後6か月を経過した方
期間: 3年間
特徴:
働く障害のある方が増えてきたことを背景に、仕事上のミスや体調管理、お金の管理といった就労に関する悩みをサポートするための制度です。
具体的には、障害者との相談に応じて課題を把握し、企業や県警機関との連絡調整、他にも企業や自宅を訪問し対面支援を月1回を実施、ほかに月1回以上の企業訪問を目標とします。
障害者の就労状況は?
障害者の就労について、一般企業、就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援について紹介しました。
では、障害がある方の就労先の選択はどのようになっているのでしょうか?
一例として、特別支援学校高等部卒業後の進路を見てみます。(表中の単位は全て人数)
区分 | 卒業者 | 社会福祉施設等 | 一般企業 | 教育訓練機関等 | 進学者 | その他 |
視覚障害 | 290 | 125 | 47 | 10 | 90 | 18 |
聴覚障害 | 492 | 68 | 192 | 20 | 193 | 19 |
知的障害 | 18,668 | 11,267 | 6,338 | 241 | 76 | 746 |
肢体不自由 | 1,841 | 1,575 | 111 | 47 | 43 | 65 |
身体虚弱 | 366 | 206 | 72 | 24 | 25 | 39 |
計 | 21,657 | 13,241 | 6,760 | 342 | 427 | 887 |
社会福祉施設等は児童福祉施設、障害者支援施、医療機関の計
教育訓練機関等は専修学校進学者、および公共職業能力開発施設等入学者の計
その他は家事手伝い、外国の学校に入学した方、進路が未定である方などの計
各区分の中で最も割合が高いものを赤字にしています。
聴覚障害の方を除いて、他の区分で全て社会福祉施設が最も割合として高く、全体でみると約61%、13,241人の方が社会福祉施設への進路を選択しています。
社会福祉施設の内訳は出ていませんが、代表的なものである就労継続支援施設に進路を選択する方が多いことが伺えるかと思います。
就労によってどのような価値を得られるか?
では、障害者は就労によってどのような価値を得られているのでしょうか?
健常者、障害者に関わらず、就労によって生まれる代表的なものは「社会的価値」と「経済的価値」だと思います。
「社会的価値」は仕事によって社会にもたらす利益や、利用者へのサービスなどで、そこから得られる充実感が楽しいと思えるものであれば、本人にとって就労は大きな意味を持ちます。
「経済的価値」は仕事によって得られるお金です。生活するため、延いては自分の好きなこと、楽しいことをするためのお金が得られれば、これも就労の大きな意味となります。
人によって就労に対して様々な意味があると思いますが、健常者も障害者も「社会的価値」と「経済的価値」の2点は区別なくすべての人が就労から得られるべき価値だと思います。
社会的価値は得られているか?
繰り返しになりますが、就労の大きな意味のひとつに社会にもたらす利益や、利用者へのサービスによって生まれる充実感があります。
多くの人が自分の仕事が誰かに役に立っている、ということを仕事のやりがいとして感じるのではないでしょうか。
障害者の代表的な就労先として選択される就労継続支援の仕事内容は、一般民間企業からの下請けが多く、パソコンのデータ入力や梱包作業、出荷作業、清掃作業などの単純作業がどうしても多くなっています。
これらの仕事も確かに必要なものであり、必要とされているものではありますが、あくまで一般企業がもたらすもののサポートであって、その社会的価値を障害者が十分に感じるための仕組みとしては不十分ではないかと思います。
また、一般企業で障害者雇用された場合であっても、障害者の能力に合わせて主体的に取り組める仕組みとなっているでしょうか。
少し古いですが厚生労働省の平成29年のデータによると、障害者の一般企業での定着率は3か月後で70数%、1年後で60%を切っている業種が多くあります。つまり、半数近くの方が1年後には離職してしまっているということです。
このデータは、一般企業での障害者雇用がまだまだ上手く活用しておらず、一般企業で障害者が主体的に就労をし続けることが難しい状況があることを示しています。
経済的価値は得られているか?
それでは障害者は就労によって、十分な経済的な価値を得られているでしょうか?
一般企業での雇用ならばある程度の収入が得られるでしょう。
しかし、先ほどの特別支援学校(高等部)の卒業者をみても一般企業への就職は全体の3割ほどで、しかも、1年先も働らけている方はそのうちの6割ほどです。
一時的な収入が得られていても、長期的に考えると一般企業に十分な収入を期待するのは難しい状況です。
最も就労先として一般的な就労継続支援施設を見てみましょう。
就労継続支援事業(A型(雇用契約あり))平均賃金月額
年度 | 収入(円) |
平成27年度 | 67,795 |
平成28年度 | 70,720 |
平成29年度 | 74,085 |
平成30年度 | 76,887 |
令和元年 | 78,975 |
令和2年 | 79,625 |
就労継続支援事業(B型(雇用契約なし))平均工賃推移
年度 | 収入(円) |
平成27年度 | 15,033 |
平成28年度 | 15,295 |
平成29年度 | 15,603 |
平成30年度 | 16,118 |
令和元年 | 16,369 |
令和2年 | 15,776 |
労働時間はA型で4時間以上5時間未満が全体の7割程をしめており、一般企業の8時間勤務と単純な比較はできませんし、直近の状況は増加傾向であるといえ、障害者がこの収入を頼りに自立した生活を送るのは難しいでしょう。
これらの収入に障害年金を合わせ、両親などの支援やサポートを受けながら生活をしている、というのが現状なのだと思います。
障害年金についてはこちらを参照してください。
就労継続支援事業は障害者に対して生産活動の機会を提供する意味合いが強く、社会的・経済的な付加価値を提供することが一般企業よりも弱くなりやすいため、障害者には健常者のような、「やりがい」と「収入」を積極的に求めていく環境が少ないのが現状です。
障害者の就労はどのようになっていくか?
障害者の就労が健常者と比較してその機会や、そこから得られる価値が低いという問題の原因は何でしょうか?
私は、個々の違いを認めた就労が作られていないから、だと思っています。
就労するための決まり事が先に出来ていて、そこに人が合わせなければならないため、障害があるとその決まり事に対応できないことが多いのだと思います。
そういった会社、就労先があまりにも多く、それらが経済的に、また社会的に大きな力をもっているために就労継続支援事業などもそれに頼った構造になってしまっているように感じます。
また、この状態は健常者にとってもよいとは思えません。
障害の有無にかかわらず人はそれぞれ違いがあり、それらを認めて合わせられる社会、会社で評価されていくことは全ての人にとって利益になります。
誰しもがいつ「障害者」になるか分かりません。
障害者を含めた就労は、この先、人の違いを認めて活かすことで生産性を高める動きが加速していくのではないでしょうか。
ソーシャルファームという考え方
人の違いを認めて活かすことで生産性を高める例を挙げたいと思います。
ソーシャルファームという取り組みをご存じでしょうか? これは以下のようなものです。
「SOCIAL=社会的な」+「FIRM=企業」という意味をもち、一般企業での就職が難しい人を雇用し、他の従業員と一緒に働きながら、「どうしたら利益を挙げられるか」というビジネスの視点を取り入れることで、一般企業と競争できる事業を展開する取り組み。
このどうしたら利益を挙げられるか、という視点が大切です。継続し、発展していくために必要になるからです。
実際の例を紹介します。
京都府舞鶴に「ほのぼの屋」という2002年4月にオープンしたフレンチレストランがあります。
1万円をこえるディナーコースを提供し、予約のとれない人気店となっているこのお店では20~70歳代の約20人の知的・精神・身体障害者が接客や調理、掃除などを担当しています。
特に障害者が働いていることを表立って掲げているわけではなく、ごく一般的なレストランとして営われていて、予約のとれない人気店になっています。
トゥレット症候群という難病をもつ裏方スタッフや、鬱病と戦いながら働くホールスタッフが「お客様のサービス」を考えながら働く、という健常者と格差のない環境を作っているそうです。
そして、個人差は当然あるものの、ここで働くスタッフは経済的に独立できる収入を得られています。
少し古いですが、ほのぼの屋を紹介した記事がありましたので載せておきます。
大切なのは一般企業のように最大利益を求め続ける仕組みに障害者の雇用を組み込むのではなく、障害者の能力の中で利益を挙げられる仕組みを作ることです。
そのためには地域との連携や、自治体からの補助金なども必要でしょう。
ほのぼの屋以外にもいくつも実例があります。
滋賀県大津市でクッキー製造販売を行う「がんばカンパニー」、
アール・ブリュットという美術作品を扱う滋賀県近江八幡市「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」、
岐阜県多治見市でブドウ畑とワイナリーを営む「AJU自立の家」
まだまだ様々な取り組みが広がっています。
最後に。
障害者の雇用について、現在の状況と、これからの課題や将来像など私の考えも交えてまとめました。
もちろん、現状を違う捉え方をしている方もいるでしょうし、将来を違うものとして描いている方もいると思います。
ただ、「障害者の特別な権利として平等な就労環境を求めているわけではなく、誰もが当たり前に働き、暮らせる社会になってほしい」という思いは共通にあると思います。
この記事を書きながら、私も就労する場所を作る立場になってみたいなぁと感じました。
コラム: まずは知ることから。
最終的な目標として、健常者・障害者が当たり前の権利として平等に働き、暮らせる会社、社会が出来ていくことだとまとめました。
では、今の仕組みの中でまずできることはと言えば、「まずは知ること」から始めるのがよいと思います。
一般企業は上述したように法定雇用率がありますので障害者を雇用しなければいけませんが、義務感として捉えるのではなく、障害者のベストな就労環境を作り会社の戦力となってもらうために、A型の就労継続施設に連絡・見学に行くといった繋がりをもつことが重要ではないでしょうか。個々の就労計画の立て方などは一般企業よりも就労施設のほうがノウハウを持っているでしょうから、きっと参考になります。
また、一般企業との直接の交流が生まれれば、就労施設も下請けとしてではなく、違った目線での価値観を提供できるチャンスが生まれるかもしれません。
すぐには変わってこないと思いますが、ただのサラリーマンの私でも出来る範囲のことをやってみたいので、まずは、私の職場で障害者雇用枠で働く方と話をしてみようと思います。
このコラムに書いてあるような取り組みを実践されている就労継続施設のお話が以下の書籍で書かれていました。障害者雇用に関してとても前向きになれる本です。