障害者スポーツ。
パラリンピックや、人の多様性を認める世の中の流れもあり、以前よりも目にする、耳にする機会が増えてきたように思います。
障害や程度によってクラス分けがされていたり、まったく別のスポーツとして確立していたりと今後の発展が楽しみになるものが多くあります。
ここでは、障害者スポーツとは何か、という基本的なことから、必要性、今後の課題についてまとめました。
障害者スポーツとは?
そもそもスポーツとは、「一定のルールに則って勝敗を競ったり、楽しみを求めたりする身体活動」のことを言うそうです。
プロスポーツに代表される「見せること」を中心とするもの、友達や知人と純粋にその活動自体を楽しむことに重きをおく草野球のようなもの、民族としての文化やアイデンティティを示す大相撲のようなもの、体操やダンスのような健康な心身を保つもの、など多くの種類に分類できたり、同じスポーツの中でも違う見方のできるものなど本当に様々なものがあります。
これらと同じ流れに「障害者スポーツ」があります。
つまり「スポーツ」と「障害者スポーツ」という分類がされているわけではなく、多くのスポーツのジャンルの中に、障害に応じてルールや道具の工夫がされている障害者スポーツというもの、があるということです。
障害者スポーツは英語で「Adapted Sports」となるそうです。これは「ルールや用具を実践者の障害の種類や程度に合わせた(Adaptした)スポーツ」、あるいは「その人に合ったスポーツ」という意味になります。
Adapted Sportsという表現からも分かるように、障害者スポーツは障害のない方も一緒に楽しみこともできます。各障害に合わせたルールの下で、障害の有無に関係なくスポーツに参加することが可能になっています。
障害者スポーツの必要性とは?
様々な方が楽しめるスポーツですが、障害のある方にとっての効果はどのようなものがあるでしょうか。
医療としての側面
スポーツによって通常の生活では行わない運動や解放感を得られることで、医療として、リハビリテーションとしての効果が期待されます。
一方で、パラリンピックなどが徐々に人気になってきたこともあり、医療としてのスポーツの効果のみを期待する動きは弱くなっていて、多角的にスポーツをとらえることが一般的になっています。
社会参加という側面
社会参加、というと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、これは仲間づくりや生活圏の拡大のことです。
スポーツを通じた新たな交流が生まれることによって、責任感や努力をすることに対する態度、コミュニケーション能力を育むことになり、更に、自身の障害で苦労されている中でも他者を思いやる気持ちを理解し育てていくといった効果が期待できます。
精神的な側面
障害者スポーツ協会が実施した調査によると、この側面がもっともスポーツによって得られる効果だとされています。
これは生活に対する充実感やストレスの解消といった効果を言います。
身体的な側面
都市化の進行やそれに伴う生活の利便性向上によって、障害の有無に関係なく運動不足になりやすい環境が増えていますが、とりわけ、外出が難しくなりやすい障害者にとって、スポーツによって日頃の運動不足解消や健康維持、健康増進といった効果は大きなものになります。
また、ダウン症に関して考えると、ダウン症児は筋力弱いことが多く、そこから運動不足、肥満につながることもあるため、スポーツにより体を動かす理由ができることにはとても意味があります。
どういったスポーツがあるか?
障害者スポーツがなかなか浸透していない日本でも「車いすバスケ」や「車いすテニス」、それと最近はCMなどでも目にする「ボッチャ」などは有名なところですが、まだあまり知られていないもので注目の障害者スポーツをいくつか紹介します。
- 視覚障害者音源走(50m)
陸上競技のひとつです。ブラインドサッカーのイメージに近いですが、視力0~0.03、視野5度以内の視覚障害者がゴール後方の音源を頼りに走ります。
YouTubeで「視覚障害者音源走」で動画が見れました。「ビー」という音源に混じって、実況の方らしい声で「ひだりー」のようなアドバイスをしている声が聞こえます。 - ジャベリックスロー
ポリエチレン製の長さ約70cm、重さ300gの大きなダーツのような形をしたもの(ジャベリック)を投げて、距離を競います。槍投げに似ています。
こちらもYoutubeで検索すると、健常者の方がジャベリックを大会で投げている様子が見られます。まるでロケットのようです。 - サウンドテーブルテニス
一般の卓球が困難な視覚障害者が専用の卓球台でボールを転がし、金属球4個が入った球をネットの下を通して得点を競うものです。金属球の音がなるようにラケットにはラバーが張られていません。むしろ、音がならないように打った場合は反則になります。
これもYoutubeで見られます。ボールをネットの下に通しながら、強く、浮かないように打つ技術や、周りからのアドバイスなしで打ちあう集中力は凄まじいなぁと思いますし、見ていてすごく緊張感がありました。 - スポーツ(ウエルネス)吹き矢
5~10m離れた円形の的をめがけて吹き矢を放ち得点を競うスポーツです。競技では1ラウンドに5本の矢を吹いて、ラウンド数をこなし、合計点を競います。
私も近所の市民体育館で体験したことがありますが、難しいのに最初からとても楽しく、長く飽きずにやり込める要素が強い種目だと思いました。
まだまだあります。個人的にはサウンドテーブルテニスが好きです。
各種目の説明は東京都障害スポーツ協会、日本障害者スポーツ大会、日本スポーツウエルネス吹矢協会の各HPから引用させていただきました。
ダウン症とスポーツの関係
スポーツを競技の面から考えると、ダウン症は視覚障害や肢体不自由が伴わないこともあるため、スポーツで大会に出たいと思った場合は、知的障害の部で出ることが多くなります。しかし、視覚や肢体機能に問題がない一方で、ダウン症には筋肉の緊張が弱いといった特徴もあります。そのため、大会などで競うことを考えると、ダウン症の方は不利な面がありました。
しかし、徐々に新たな動きがみられてきています。
たとえば、2020年8月30日に宮崎県で行われた陸上記念会の障害者アスリートの種目で、国内で初の「ダウン症の部」が設けられました。(ニュース記事へのリンクをつけています)
これは国際知的障害者スポーツ連盟(Virtus)の実施している流れを受けたもので、Virtusは知的障害のクラスを一つにまとめず、身体障害の重い選手のクラスを新設していくそうです。
こうすることで、これまで競技で勝てずスポーツを続けるモチベーションを保つことが難しかったダウン症の方の環境が変わっていくかもしれません。
また、障害者のスポーツ大会が積極的にアピールされることも多くなってきました。
パラリンピックはもちろんですが、少し古い話で、2014年ベルギーで行われたスペシャル・オリンピクス(知的障害者によるスポーツ大会)では親善大使を務められたサッカーベルギー代表のブライネ選手のPR方法が話題になりました。
このブライネ選手は自身のSNSに、自分の顔とダウン症の方の合成写真を投稿し、「こんな風になっても、みんなファンのままでいてくれるかな?」という問いかけを行いました。
「不謹慎だ!」という声もある中で、ブライネ選手はつぎのように語り、結果として、このスペシャルオリンピクスは多数の人を呼びました。
「みなさん、スペシャルオリンピクスを見に来てください。知的障害を持つアスリートたちの素晴らしいパフォーマンスには、素晴らしい観客たちが訪れる価値がある。私はこの大会の対しになったことを誇りに思います。」
様々な活動や運動が続けられていますが、障害の有無にかかわらず、スポーツを真剣に楽しむ環境ができて、それを見て楽しむこともできる環境が出来てほしいなぁと思います。
余談ですが、昨年、北海道で実施予定であったスペシャル・オリンピクスにボランティアで参加予定でした。残念ながら中止になってしまいましたが、本当に参加してみたかったです・・・。
今後の課題
最近のパラリンピックに対する報道などで、障害者スポーツはすごく注目を集めるようになりました。しかし、もちろん課題がないわけではありません。
全ての障害に平等な環境があるわけではない
パラリンピックは障害者にとってスポーツの環境がこれから整っていくかを考える時、とても重要な大会であると思います。しかし、すべての障害者を代表する大会と思われるパラリンピックでさえ、肢体不自由、視覚障害、知的障害をカバーしているのみで、聴覚障害、精神障害に対する種目はありません。
障害にうまく対応したルールがあり、見た目も健常者が中心となっているスポーツと比較して分かりやすい障害者スポーツはメディアでの露出も多くなりますし、注目が高まります。同時にそれは選手、関係者へのモチベーションとなり、また競技への発展につながっていく好循環が生まれます。ブラインドサッカーやボッチャなどが代表的なものだと思います。
一方で好循環とはならないものもあります。例えば、聴覚障害は陸上競技や水泳など健常者とほぼ同等のルールで競うことができるため、なかなか「Adapted」されたルールは広まっていきません。
どういった障害を持っているにしろ、等しく楽しむことが出来る環境が整備されてほしいと思います。
パラアスリートが基準となる考え方
パラリンピックが注目を集めていくと、どこか障害者はあれくらいは動けるものだという認識が広まっているのではないかと危惧することがあります。
オリンピック選手が一般の人から見ると超人に見えている一方で、パラリンピック選手は頑張っている障害者、くらいの認識の方もいるのではないかと思うのです。あの方々も等しく超人です。
例えば、企業が障害者採用を考える際に、一番に頭に浮かぶメディアで見た障害者スポーツ選手たちが基準となれば、用意される環境は一般の障害者にはつらいものになってしまうかもしれません。
道端で子供や大人がサッカーやバトミントンをするように、障害者がスポーツをすることを目にする、障害者が目に入るところで自由にスポーツをする環境や理解が整ってくると、障害によりどのくらいの行動の制約が生まれるのかといった認識が広まってくるのではないかと思います。
最後に。
私も少し前までは障害者スポーツをどのように捉えたらよいのかという悩みがありました。
健常児と障害者を区別しないでほしいと思う一方で、スポーツにおいては区別して実施していることに違和感を感じないということが、自分の中でよく分からなかったからだと思います。
しかし、今はすんなりと受け入れることが出来ます。柔道やボクシングに体重による階級があるように、障害の程度や種類にルールを合わせることはごく自然なことだと思っています。
それぞれに合ったルールの中で競い合うことは、どういったスポーツ、どういった方々であっても、見る側もする側も楽しいなぁと素直に思います。
コラム:パラリンピックの100m走は29種類?
パラリンピックは基本的にオリンピックと同じルールで実施されますが、大きな特徴として「クラス分け」の制度があります。
陸上競技のクラスは、アルファベット「T」と「F」、それと2桁の数字を組み合わせて表記します。
「T」は「トラック競技、跳躍競技、マラソン」、「F」は投てき競技、
数字は10の位が障がいの種類(1は視覚障害、2は知的障害、3は脳性麻痺または脳損傷に起因する協調運動障害、4は低身長症または下肢上肢の障害、5は脊髄損傷などによる筋力低下・可動域制限など、6は下肢欠損選手が義足を試使用するクラス)、
1の位は障害の程度で、数字が小さいほど障害の程度が重い、ということになります。
このような細かいクラス分けが行われているため、100m走だけで男子女子合わせて29種類になっています。
ちなみに奇数になっているのは、基本的に全て男子・女子共有で種目があるのですが、T33、T51、T52だけは男子だけの種目にあっているので種目数を合計すると奇数になっています。
ちなみにこれは東京オリンピックのクラス分けを参考にして書いています。
このようなクラス分けを理解してみることもパラリンピックの楽しみ方の一つだと思います。